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現在の両者の距離は約10メートル。
近すぎず遠からずといったところだろうか。
あまり身体能力には自信がない椋でも3秒あれば余裕で詰められる距離だ。
結晶に意識を集中させ、静かに、中の《声の主》に問いかける。
スッと、あたりがまっ暗になる。まるで空間が書き換えられたようだ。
目の前には金色の光の塊がある。
(…ここは?)
『オマエの心の中の空間だ。』
(心の中…?)
『で…なんだ』
少し気怠そうな声が脳内に響く。
(君はさっき、リミッターをかけてるって言ったよね?)
『…ああ』
今の『光輪の加護』でも十分すぎると思っていた。
しかし足りない。それだけじゃ足りない。本気で殺す気でいかないと、あいつには届かない。
(はずしてくれないか?)
『それはできない。』
すぐに否定の言葉が返ってくる。
しかしそれで「はい、そうですか」と引き下がれる状況ではない。
(なぜなんだ?拳一発分だけでいいんだ!)
切に願う。しかし帰ってくるのは、拒否であった。
『だめだ。できないわけではない。しかし強大な力はそれに見合った反動をもっている。今は5段階中の1段階目といったところだ。今のオマエの身体能力で次の段階にギアを上げてしまっては、オマエの体が耐えられないはずだ。』
(腕一本壊すくらいの覚悟は持っている!…だから…だから!)
『今ギアを2にしてしまったら、相手側の命の保証もない。本当にそれでもいいのか?』
(構わない。そもそもそのつもりだ。)
『復讐心に囚われるな。いつかその身をなくすことになるぞ。』
続けざまに、声の主は言う。
『それに、この能力はオマエのものなのだ。オマエが振るう力をお前が足りないと感じてどうする。足りないと感じるのは、オマエの技量と能力を信じる気持ちが足りていないからだ。』
もっともだ、と思ってしまった。
(その通りだな…。すまない…俺が間違えていた。)
『安心しろ。どうしてもというときは、私がリミッターをはずしてやる。しかしあまり期待はするなよ?』
その言葉には、不思議と安心感があり一応心配(?)してくれているのだろうか?と思うような発言でもあった。
(わかった。いってくる。)
そういうと、暗黒の空間が一瞬で消え、元の古びた倉庫に戻っている。
声の主と結構話したつもりでいたのだが、元の空間ではあんまり時間が経過していないようだった。
あれが…俺の心の中…。とそっちに気が言ってしまいそうになるのを避けるために、首を2・3回横に振り、雑念を飛ばす。
椋は勝算があるわけではないが、取りあえず、声の主に言われた通り、とりあえず自分の能力に自信を持つことにした。
椋、小林、両者の視線が火花を散らしているようだ。
そして両者ほぼ同時に前に一歩踏み出した。




