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「では、玄武寮代表のあの生徒は4回戦の時点で七罪結晶を使用していたというのかね?」
村本から飛んできた第一の質問はそれだった。
乙姫本人も確実に見ていたのだ。黒い生物。この情報というよりは証言がなければ椋はそもそもその存在にすら気がつくことができなかったのだから。
「間違いありません。朱雀寮代表本人から聞いた話です」
「なるほど。では一度信じてみることにしよう。この場合の信じるは少年、君とそこの山根君を信じるということであって、決して永棟君の疑いが晴れたわけではない。そこを理解していてくれたまえ」
そう言うと村本は大きな机から何かを取り出し、黒革の校長椅子から立ち上がると、椋の前に立ちその何かを差し出してくる。
こうして前に立たれると相当の威圧感を放っている。身長は2m程あるだろうか、椅子に座っていた時からなんとなくはわかっていたが相当な巨漢だ。
黒崎なんて比にならないくらいのその威圧感、重圧。もし彼が殺気でも放とうものなら、その場に倒れ込んでしまいそうな程、ジリジリとしたそれを感じる。
「これは?」
渡されたのは1枚のプリント今時珍しい紙媒体のそれに目を通す。
何かの契約書のようなそれに書いているそれを要訳するとつまりこういうことになる。
『七罪結晶の回収に協力すること。すべての回収、または破壊、または沈静化に成功した場合特別な報酬を与える。』
こんな感じのことを堅苦しく書き綴ってあった。
「校長!!あまりにも危険すぎます!」
山根のそんな言葉はまるで耳に入ってこないかのように村本重信は言う。
「これは命令書のようなものだ。ここで破り捨てても構わんが、少年、君にとってはこれの方がいいんじゃないのか?」
「あなたは俺たちの目的を知ってるんですか?」
まるで知っているような口ぶりのそれに食らいつく。《愚者》の本来の目的は奪われた自分の力を他の《エレメント》から回収することだ。
まだそれを知っているはずはないのだが……。
「もちろん知っているとも。君がこの書面通りすべての七罪結晶を回収できたのなら正の《魔術師》の名に誓い、奪った力を返すためのチャンスをくれてやる!!」
願ってもない話だ。フールは言っていた。今の自分たちが村本に勝負を挑んだところで1分と持たないであろうと。それほどに目の前に立っているこの老人は強いのだ。フールをああも簡単に屈服させてしまうほどに。その《魔術師》から戦闘という手段を取らずに力を回収できる。これほどに素晴らしい条件はないだろう。
とりあえずその承諾書を受け取り折りたたむと、胸元のポケットに詰め込んだ。




