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彼女はもう完全に気がついているのだ。七罪結晶の異常性に。
確信が持てる。彼女が七罪結晶に魅せられることがないということを。
「それを聞いて安心したよ……もしも、少しでも七罪結晶に関係のある噂を聞いたら俺に知らせてくれないか?」
「椋さんはどうしてその結晶を追うのですか?そんな昨日知ったようなものためにどうして?」
彼女が不思議そうな目でこちらの様子を伺ってくる。しかし無理もないだろう。いま自分がどんな顔をしているかわからないくらいに嫌なところを突かれた質問だった。
わからないのだ。なんで自分がこんなことのために動いているのか。自分にとって七罪結晶に関わるメリットがない。それどころか自分自身を危険な目に追い込んでいる。無益どころか有害なのだ。
これまで何事にも不干渉で生きてきた自分がフールに出会ってからというものいろんなことに顔を突き出すようになってしまった気がする。
その日に出会った自分とはほとんど無関係の少女が黒崎にボロボロにされているのを見て飛びかかったりするなど、これまでの人生では考えられない行為だ。
今回の件は大宮の負の《月》から力を回収するという目的のもとで黒崎討伐に全力を注いだというメインでありサブでもある目的があったわけだが、それでもあんな積極的な行動を起こす人間ではなかったはずなのだ。
自分の中で確実に何かが変わり始めている。それを実感するとどんな顔をしていいのかわからなくなっていた。
「それは…………」
振り絞ろうとしても言葉は出ない。椋の事情を知らない乙姫に今の彼の心情を読み取ることなど到底できないのだろうが、その表情は無知の乙姫にもなにか感じさせるものがあったのだろう。
「いや…………そんな深刻に考え込まなくてもいいんですよ?私もただ聞いてみたかっただけですから!!」
再び両手をワタワタと振りながら必死にフォローを入れてくる。
「ごめん……わからないんだ……。なんでなんだろう……」
考え込めば考え込むほどにわからなくなっていく。
「すいません……変なこと聞いてしまって……」
「いや……謝ることないよ。答えを出せないのは俺なんだから……」
本当に理由なんてどうでもいいことなのかもしれない。
しかし椋にはその理由とやらを持たずにただ動き回っている自分が阿呆らしく感じられたのだ。




