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『試合終了!!勝者麒麟寮代表、辻井椋選手!我が校入寮祭始まって以来の完全勝利です!!』
そんな司会の声と共に上空から小さな結晶の粒がパラパラと降って第一寮の噴水の中に沈んでいく。
空を覆っていたフィールドは天頂から順に解除されて空が元に戻っていく。それが地面に達する頃には自分の喉もすっかり治っていて、声が出ることに少しだけ感動を覚えた。
街中に設置されている大量のモニターにはそれぞれ自分の顔が写っている。
ここが偶然にもこの場所が麒麟第一寮、そして第一寮の近くには試合を観戦するための巨大なスクリーンが設置された建築物があるからだろう。大量の足音がこちらに向かい、そして歓喜の声が街中に響き渡る。
試合終了後も気絶したままの玄武寮代表黒崎泥雲を救護班に引き渡し、自分自身もその大量の声のもとに向かう。
『これにて全試合が終了しました!!優勝が麒麟寮400P、続き玄武寮300P、次に白虎寮200P、そして同立4位蒼龍寮、朱雀寮100Pがぞれぞれの寮に加算されます!!』
集団の先頭には沙希、真琴、懋、新田、大宮、そして片山、いつの間に移動してきたのか山根までがいる。さすがにこの歳になって飛び込んで胴上げされたりキャッキャウフフするわけないので、冷静にみんなとハイタッチを交わしていく。
この場に契がいないのは昨日のせいだろうか?少し寂しい気もするが、昨日のあれでは仕方がない。懋に耳打ちで「後で仲直りでもしに行こう」とだけ伝え。真琴へ、そして沙希のもとへと移動する。
「おめでとう椋!」
なぜだか久しぶりに聞いたようなその声にものすごく安心感があふれる。
「いっただろ?絶対勝つって!!」
彼女があげた右手に椋も右手をあげ、ハイタッチを交わした。
そのまま麒麟寮全土での祭りを開催するとのことらしく、麒麟寮が慌ただしくなっていくなか変化は起きていた。
第一寮の噴水、その中に沈む小さな結晶の粒が自然と動き出し、集結し、ひとつになる。それどことか、どこからともなく集まった結晶は小さな立方体を形成し、再び噴水の中に沈む。
神秘的とは真逆の、禍々しくも人を魅了するような紫色の光を放ちながら、誰かに拾われるのを待っている。
そしてそれに一番に気がついたのは誰でもない、麒麟寮内全土で、おそらく一人だけ今回の祭りに参加してないであろう永棟契だということを他の人はまだ知らない。
第12章 試合と真実と嫌悪感 終




