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不意にというのとはまた違う。望んだ結果だろうか?黒崎自身は気がついていないようだが確実に『痕』は音を立てずに移動している。
「この匂い……」
それはさて置きいい加減黒崎が尾裂狐がなぜ逃げたのかを察したようだ。
「その腰の容器……動物忌避剤でも入っているのかい?」
「……………………………………………………」
「答える義理はない……か」
まあ大体黒崎の予想通りなわけで中には木酢液というやつが入っている。ペットボトルのキャップを開ければ匂いが放出、犬や猫などを寄せ付けない、かくいう狐はイヌ科の動物だ、嗅覚が発達しているのなら普通は嫌がる程度の匂いでも猛烈な刺激臭のようになって近寄れなくなっているのだろう。人間の嗅覚ですらこの匂いはわかるのだからなおさらだ。
昔読んだ地味知識がこんなところで役に立つとは思っていなかったわけで我ながらよく覚えていたなと感心している。
着々と移動をしている『痕』が黒崎の背中に張り付き、その動きを止める。何が起因で動いていたかわからないままここまで来てしまったがこれはものすごく都合がいい。
黒崎が無駄話を続ける中で椋の頭の中ではこの光輪の『痕』を最大限利用する方法をいくつも張り巡らせていた。黒崎がどんな話をしているのかあまり耳に入ってこないほど集中し、それを見出した。
完璧なルートが見つかった。そう確信した。
最初尾裂狐が登場したときは本気で負けを覚悟したほどだった。
しかし黒崎には2つの敗因がある。
椋自体いつもなら常に滞空できるわけでもなく墜落していくわけなのだが、先程から一切視界から黒崎が消えない。これは明らかな変化である、足の光輪3段階目はおそらく滞空能力だろう。足元を確認すると金色の光輪が直径1メートルほどまで広がり椋の足場となっている。
まだ余裕を見せる黒崎の小言がようやく終わったと思ったところで行動を開始する。
足場を蹴り黒崎の斜め後ろほどに座標を指定し跳躍する。
足場として使った大きな光輪は一度踏み込むと消えてしまうようで、儚げに霧散していった。
そんなことを確認しながら跳躍した椋は跳躍先にさらに新たな足場を作りそれを使いさらに跳躍をするそれを繰り返しす。
黒崎が混乱から余裕をなくしていく中、黒崎、椋、そして黒崎の背中の光輪の『痕』が綺麗に並ぶ完璧な配置になった。
そして叫ぶ。
「弾けろ……………………!!」




