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「なっ!……何をしたんだい…?ほら!尾裂狐!どうしたんだ!」
尾裂狐の撤退に大いに驚いた様子を見せた黒崎。わかりきった結果ではあるが、見ている側からしたら実に滑稽だ。必死に先ほどと同じように手を振り指示を送るが尾裂狐は黒崎と椋とのあいだをぐるぐると往復するだけであって、攻撃行動を一切取ろうとしない。
投げかけられた質問も流石にもう一度使うことはないだろうと思っていた言葉を、卑屈じみた笑みを浮かべて叫ぶ。
「お前に話す義理はない!!」
ギアが上がったことにより回復した全ての光輪。そのうちの一つ、右足を使い黒崎、そして尾裂狐がいるそこに向かい一気にその距離を詰める。
尾裂狐はその動きにしたがい椋との距離を離す。逃げるように、避けるようにだ。
「なにが……どうなって!?」
慌てふためく黒崎の顔はやがて事態を深刻に受け止め必死の回避行動を取る真剣な顔になった。
そんな黒崎のことなど一切気にせず右拳を握り込み黒崎の首をめがけて攻撃を仕掛ける。
黒崎の能力の欠点を突いた攻撃だ。一度はよけられる事を前提とし、最低でもどこかに当たるのだ、あとはこのどうバージョンアップしたかわからない『光輪の加護』がどうにかしてくれるであろう。
フールのヒントがない中ぶっつけ本番しかない現状で放った拳は予想外すぎるものであった。
攻撃が当たる直前。いつもなら攻撃後に消えるはずの光輪が腕から握った拳、敵との接触面までせり出してきた。良くわからないまま大丈夫かどうかもわからない攻撃を振るう。
再び逃げようとした黒崎はほぼ想像通り黒崎は能力を使い逃走を図ろうとするがそうやすやすとそんなことはさせない。
生憎首には当たらなかったわけだが足首にクリーンヒットし、その骨を砕く。
黒崎のこらえるようなうめき声が聞こえる。しかし決して高度を落とさない。そこが黒崎のすごいところだろう。普通の人間なら負傷時は集中力が切れ能力を維持することができないものなのだ。
しかしおかしい。ギアが上がったこの『光輪の加護』は確かに威力が上がっている。しかしそれ以外の違いが見えない。
『痕』も残っている。命じたら弾けるだろう。しかし2段階目に上がった時のような変化が見られないのはなんだか虚しいものだ。
しかしそんな感情はすぐに吹き飛んだ。
驚くべき変化がそこにはあったからだ。
黒崎の右足首に残った『痕』が不意に動き出したのだ。




