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『降参宣言は本人の発声でしか認められていない……か。辻井君、確認しときたいんだけど勝機はあるの?』
『はい。もうルートは見えてます。勝ちます!』
自信はある。尾裂狐さえどうにかなれば黒崎はどうにかなる。それに『光輪の加護』のギアも上がった。これなら行けると確信していた。
『勝ちます……ね……。わかったわ、もう止めない。だから死ぬ気で戦いなさい!そして勝つのよ!』
『はい!』
噴水の前でギアをあげるときに収納されてしまった光輪を再び展開する。
試合開始の時よりも金色の光自体に力強さというか言葉では例えにくい何かを感じる。四肢に光輪を4つずつ形成したが、一つ不思議な点があった。光輪の形自体がさして変わっていないのだ。二つの輪っかをまっすぐ一本の棒で貫いたような構図のこれが変わっていないというのに能力的変化はあるのだろうか?そんな疑念が生まれる。
こういう時のためにご意見番的フールがいるのだが、先程からもうすでに眠りについてしまっている。
「考えても仕方ないか」
そう思い戦いの準備をはじめる。腰に下げた6本のアレが入ったペットボトルの蓋を開け、その場に放り投げる。
遠くから黒い球体がこちらに向かってくるのがわかる。尾裂狐に包まれた黒崎だろう。やはり的確にこちらの場所を突き止めてくる。それも尾裂狐の能力の一つなのだろう。しかしそれが仇となる。
そもそも召喚系能力から生まれた召喚物はその元となった生物の習性や性質といったものをしっかりと持っている。それは最大の長所でもあり、そして最大の短所かつ欠点だ。
そこの黒い狐の場合はおそらく嗅覚と視覚が異常発達しているのだろう。
人や物を探し出し持ち前の破壊力で全て抉りとっていく。それが尾裂狐の最大の特徴。
そこの裏さえ取れればこっちのもんである。
「いい加減飽きたって言ってるだろ!!」
球状移動形態から自分の能力で滞空するようになった黒崎はそう言いながら尾裂狐に何らかの指示を送る。
九尾の状態から再び球状になった尾裂狐は高速回転を始め猛烈なスピードでこちらに向かって飛んでくる。
乱軌道を描き予測不能な動きで椋を翻弄しようとしている様子だが、避ける必要はなかった。椋にはわかっていたからだ。
尾裂狐が途中で突進をやめ黒崎のもとに引き返していく。
これで勝率は100%まで上がった。
勝てる。そう確信できたのだ。




