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「小林ィぃぃぃぃぃぃぃいl!!」
ホコリがまう錆くさい倉庫の中に、大音量の叫びが響く。
その叫びには怒り以外の感情がいっさい混じっていなかった。
いっさいといって関係のない沙希に暴力をふるい、挙句の果てに女の命ともいえる髪をバッサリと切り落とした小林を、椋はどうしても許すことなんてできなかった。
どんな手を使ってでこの下衆野郎を殴り飛ばさなければならない結果として小林の命を奪うことになろうとも。
今椋に残されている『光輪の加護』は四肢にそれぞれ一つずつだ。
つまりあと2回の高速移動と、あと2回の高威力攻撃しか椋には残されていない。
しかし、今ここで残り2回の高速移動を使うことになる。
椋は右足で小さく踏み込むと、固い地面に横たわっている沙希の目の前に移動する。目の前に、突然椋が現れたため、沙希が驚きの表情を見せる。
時間がないため、俗にいう『お姫様抱っこ』をし、沙希を抱きかかえる。さすがに彼女も恥ずかしそうな顔をするが、現状でそんなことを気にしている暇なんてない。
次は左足で、一歩バックし、『光輪の加護』を使い、再び元の位置に戻る。
ゆっくりと沙希を地面におろし、先ほど不良少年から回収したバタフライナイフで、沙希の手足のロープを切る。これで彼女を拘束するものは何もなくなった。
蹴られたわき腹が少し痛むようだが、それ以外に身体的ダメージはないようだ。
気にしたくはなかったが、やはり気になってしまう。
いつもそこにあったはずの、長く、きれいな黒の髪の束が片方失われてしまった。
椋の目線に気が付いたのか、沙希が切られた箇所をなぞりながら
「ああ、これ?気にしないでよ!なくなっちゃったものはしょうがないんだからさ!しかも今じゃ頭が少し軽くなってこっちの方がいいかなーなんて」
と沙希が作り笑いで、気にしてないようにふるまっているが、椋にはそれが嘘だと丸わかりだった。
椋は沙希があの長い黒髪をどれだけの時間をかけ、どれほど大事にして来たかを知っているからだ。
(俺のせいで…俺のせいで沙希がこんなひどい目に…)
そう自分を責めたくなる。しかし懺悔の前にやるべきことがある。
椋はもう一度決意を固める。
沙希のためにも。自分のためにもだ。
「小林は、この手で必ずぶっ飛ばす!」




