覚醒の形1~欠陥品の末路~ 1
2062年3月4日
少年は日の沈みかけた赤い空を見ていた。
3月のまだ寒い風が、肌にまとわりつき、左頬についている少し腫れた痕を刺激する。
殴られて付いた傷である。
少年は、この時代の社会に、いや、この世界に絶望していた。
いつの時代も、弱者と強者が存在する。弱者は強者の上には立てないし、強者は弱者より上に立ちたがる。
それがより現実的に見えるのが、教育機関でいまだに亡くならない《イジメ》である。
イジメというものは本当に醜いものである。
あいつ、小林誠吾はいつも少年に対して暴力をふるうたびに、まるで脅えているような目をこちらに向けてくる。
少年にはいじめてくる方の気持ちが、いっさいといっていいほど理解できないでいる。
いじめることに意味があるとは思えないし、何より、いじめる事によって、自分の地位が上がるわけでもない。むしろ落とす一方だと思ってしまう。
ただ会いたくないのであれば無視をしてくれればいいのに…。居ない存在でいいのに…。
などと心の中で思いつつ、少年はゆっくりと左頬をさする。
「うっ…」
ジリッっとした痛みが、頬から顔中に広がる。
しかし少年は涙を流さない。それは完全な屈服になってしまうからだ。
謝らない、媚びない、弱音を吐かない、物はわたさない。負けだけは認めたくないのだ。
どうでもいいと言いつつ、自分の中の最後のプライドのようなものを捨てきれない。
そんな矛盾思考を抱えた少年の悩みは消えない。
俺は誰かに必要とされているのか、誰か俺のことを愛してくれるのか、親にさえ見捨てられた自分に、生きていく意味はあるのか……。
ネガティブな方向にしか、思考が働かない。
マイナス思考を抱えながら、少年、辻井椋はゆっくりと帰路につくのであった。