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買い物かごを片手に必死に走り回ってようやく頑丈な紐、大量のペットボトル、千枚通し、大きなリュックサック、そしてアレを買い物かごに詰め込み、急いで準備をする。
『辻井君?貴方何をしてるの?』
山根から飛んでくる疑問。山根はこちらの指揮官だが、同時に一観客者なのだ。少しは楽しませないといけないだろう。
『楽しみにしていてください!』
スタッフ専用の部屋に侵入し作業に集中する。3工程しかない単純な作業なためさくさくと作業は進み尾裂狐が到着するのよりも早く終わった。
向こうも探すのに少し時間を食っているのだろうか?思ったよりも時間に余裕がもてた。
それでもいつまでもここにとどまっているわけには行かない。リュックサックに完成品を詰め込み、さらに千枚通しで穴を開けた自分のベルトに紐で完成品をぶら下げる。
「よしッ!!」
気合をいれ準備も完了しリュックサックを背負った椋はホームセンターの出口に向かって走った。
○~○~○~○
ずっ…。と不思議な音がした。ちょうどホームセンターをでたその自動ドア前での出来事であった。
唐突過ぎて予測ができなかった。意識を不思議な音に向けることができるようになってからでは遅かった。直感的なものでとっさに右足でステップを踏み光輪を消費することにより跳躍する。たかが数十センチ後方に飛ぶだけでこれほど冷や汗を流したのははじめだった。
待ち伏せされていたのだ。
出口がここしかないということを確認した上でずっと待っていたのだろう。
跳躍が終了すると椋の眼前を黒く大きな円盤状の物体が通り過ぎて椋の喉元にそれが掠った。
「がぁっ!!」
ほんの少し、本当にほんの少し掠めただけだったのだ。それだけで椋は後方に飛ばされホームセンターの反応しきれず中途半端に開いた扉に叩きつけられる。
体中の力が抜けた。ズルズルと滑り落ち、地面にへたれこむ。
視界に入ったのは円盤状の尾裂狐と黒崎だ。
『辻井君!!降参しなさい!!早く!!』
山根の大きな叫びが脳内で何度も繰り返されるが、手足が動かせない。そもそも声が出ないのだ。
「ゼヒューー………」
と虚しく空気を吸い込む音しかだせない。
荒い呼吸音を立て、震える手で喉元を触る。出血はみとめられないがおそらく咽頭を傷つけてしまったのだろう。
『すいません…先生…約束守れません…喉が……』




