10
そう切り出した彼女の口調はいつもよりも重いものであった。
『走りながら聞いてね…。あれは私がとある研究で成功を納めて名声をあげた高校卒業時、大体十年くらい前の話よ…』
何度もビルのような校舎を曲がり続ける。後ろから聞こえてくる黒妖狐、山根曰く尾裂狐と言うらしいそいつが校舎を破壊していく音が少し遠ざかっていく。
『…はぁ……はっ…先生ってもうっ……すぐ……三十路だったんですね……』
『うるさいわね!!そんなことを気にしないでいいの、話聞きたくないの!?』
『はい…すいません……』
とまぁこんな冗談を言える分まだ少し心に余裕があるのだろう。今後一切無駄口は挟まないと心に軽く誓い彼女の話を聞く。
『ちょうどその頃世間では天然結晶の出現が騒がれていたわ。自分で言うのもなんだけと、私すごく優秀だったの。自分の優秀さを認められて私は大学に進学すると同時にあるプロジェクトに招待された。[原石超深部使用による超兵器型人工結晶開発実験]そんな堅苦しい名前の研究だったわ。私は舞い上がってたの。自分の実力が認められて、学校程度の設備を脱して本物の研究機関の機材を使い実験をすることができる。研究者にとってこれほど嬉しいことはなかった。本当に愚かだったわ…。』
『でもそれって…本当にいいことなんじゃ?』
山根に問い返す。聞いてるだけでは学生時代の彼女にとっては完全にいいことづくめではないかと思ったからだ。
逃げながら山根の話に耳を傾け続けるというのは思ったより難しい。一度話に集中するためどこか避難できそうなある場所を探す。
地下鉄のホームへ向かう道だ。試合中は全線運行を中止しているらしく、人がいないのはほぼ確実なのだが、まだ数人残っているようで赤いバツ印がついているところが多い。そんな中ようやく見つけたバツ印の入っていない入口に駆け込み一気に地下に降りる。
ここからなら確実に上空から観察する黒崎からは見えない。黒妖狐の方も気になるが、一度ここで休息をとることにした。
『貴方結構せっかちね…。話は最後まで聞きなさい。開発目標は天然結晶を超える人工結晶。そんな感じだったわ。新任の私のすることは意味のわからないデータの記録だけ、それが何ヶ月も続いた。そんな中開発グループのリーダーが試作品を完成させた。開発長と共にいたのは黒い獅子。コードネーム[虚飾]。人工結晶初の召喚系結晶よ。』




