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とりあえず移動した先は校舎棟を見渡せる限りで一番遠いところにある麒麟寮よりの校舎だ。ここらの建物には見当たらないが、奥の方、麒麟寮のほとんどの建物の屋根には赤いバツ印がついている。おそらく中に人がいるということだろう。
どこかわからないがとりあえず着地した椋は逃げるようにその場から走り去る。全力でだ。
先程まで椋がいた位置、跳躍時の目的地と指定した校舎の屋上に当たる部分は既に半分無くなっている。到着してから5秒と経たずに妖狐に抉り取られたのだ。
それにしてもこの妖狐の移動速度は異常だ。『光輪の加護』でさえほとんど人間には目視できないレベルの速さだ。その速さに普通に着いてくる上にこの謎の破壊力だ。バケモノなんてもんじゃない。あれは悪魔だ。
フィールド内ではいくら物質を破壊しようが最終的に修復してくれる。少し心苦しい部分もあるが逃走手段は選べない。
屋上の扉を開け校舎内に侵入する。まさか初めてこの学園の校舎に入るのがこんな時だとは思わなかったが、そんなもの気にしていられない。
屋上からの脱出時、黒妖狐がおそらくではあるが、黒崎のもとに帰っていくのを確認した。今のうちに地上に逃げなければならない。
『その建物は4階建て二階からなら飛び降りても多分怪我しないわ!』
という教師の指導としては考えられない助言を受け、階段を下り窓に向かってダイブする。
パリィィンと音を鳴らし砕けるガラスが地面にぶつかり音を立てて割れていく。
とりあえず逃げなくてはいけない。その思いに駆られ足が少しもつれたがそのまま走る。
走っていると足元に不思議なものが見える。黒い円形の影のようなものだ。上空になにか浮いているとしか思えない。というよりこの状況で浮いているものと言ったらひとつしかない。
(もう追いつかれたか…)
目線を70度ほど上に向けると、そこには黒妖狐、そしてその尾に包まれた黒崎の姿があった。
「鬼ごっこは終わりだよ辻井君!!」
そう言いながら自身の移動能力を使い黒妖狐の鎧から脱出する。妖狐は球体になろうとするが、先ほどとは違い、1本の尾の先端が赤く染まっている。何を意味するかはわからない。再び完璧な球状のなると高速回転を始めあの抉りとる攻撃を繰り出そうとこちらにむかってきていた。




