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「うっ…」
と黒崎が妙な唸り声を発しながら胸元を押さえる。苦しんでいるようにも見えたが、それはそれで結構である。
しかしすぐにそんなことも言ってられなくなる。胸元からは少量の鈍色の結晶光と共にあの黒いオーラが爆発したかのように暴れ始めたのだ。
いや、これはあのオーラなのか?
最初はぼやぼやした印象だった黒いオーラは、今しっかりと9つの黒く長く太くなって荒々しく黒崎の全身をつつみ、きれいな黒い球体を形成した。
どう手を着けたらいいのかわからない。触れても大丈夫なのか、そもそもダメージは通るのだろうか?柔らかいのか硬いのか、薄いのか厚いのか、それすらわからないのだ。
不気味な沈黙がスタジアム全体を包む。
スタジアムの天井が静かな音で開放していき、明るい陽射しが差し込むが誰もそんなことを気にしない。
一同が見守る。そればかりに集中してしまう。
『…………て』
球体が一瞬だけ歪な形になる。
『……げて!!』
そんな声が脳内に響くが、それよりも目を引く、いや目を奪われる光景がそこにはあった。
黒い球体は花ビラのように9つに裂けていく。
その中央には何か赤く光る二つの点がある。
赤い点は眼だろうか?これが乙姫が見たという生物だろうか?九つの大きな尾……中型犬くらいの体格、尖った鼻先…狐、つまりは九尾の妖狐か。スラッとした黒く美しいフォルムに思わず見とれてしまう。
『逃げて!!辻井君!!』
山根の叫びでようやく意識が謎の物体から離れる。
『え………?どういうことですか?』
『なんでもいいから早く逃げなさい!!』
『だからどうい………』
言葉を返す前に既に現象は起きた。黒い妖狐は再び球状になり見ただけで分かってしまうほどの高速回転をはじめ気がつくとそれは自分の横を通り過ぎていた。スタジアムを超えて野外までだ。
あとになって大きすぎる反動、衝撃波のようなものが襲いかかってくる。妖狐が通った部分は異常だ。破壊されたのではない、消え去っていたのだ。がれきの破片など存在しない。全て飲み込まれたのだ。黒崎の立っているところからまっすぐ一直線上は元がその形だったかのように違和感なく無くなっている。
あれに当たれば自分の体ごとああなることぐらいは安易に予想できた。
「なんで君がこれを知っているかは知らない……。でもね、これ以上深入りすると死ぬ…いや、殺すよ?」




