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先に仕掛けたのは勿論自分からだった。黒崎の開放された狂気に負けないように。恐いからこそ、先に手を打つのだ。
右足の光輪を消費させ一歩踏み込む。跳躍先は黒崎の懐、テンプレート的だが初撃としては効果的な戦術である。3mなんていう距離は一切感じない。一歩にも満たないと感じてしまう距離だ。
少しかがんだような姿勢で黒崎の懐に飛び込むと、右手でそのままみぞおちに向かい拳を放つ。
ここまでの時間は1秒と経ってないだろう。司会者の開戦宣言が終わったとほぼ同時に飛び込んでいるため、ようやくマイクの音が消えたくらいだ。
しかし黒崎はこの奇襲にも対応してくる。右拳は虚しくも空振る。黒崎はもうそこにいないからだ。
しかしそこで終わるわけない。せっかく乙姫から黒崎の能力の詳細を教えてもらったのだ。無駄にするわけには行かない。
足の光輪、2段階目の跳躍先を上空に、自分の真上に指定し一気に飛び上がる。黒崎の真上でもある。
黒崎の能力には2つほど弱点がある。これはそのうちの一つだ。
黒崎の能力は自分の首の位置Aと、体の任意の部位Xの位置Bを入れ替える能力だとおもわれる。それなら一度だけ、最初の一回だけなら黒崎がどこに飛ぶのかが絶対に分かるのだ。そう地に足を付け立っている普通の状態ならば、その能力は上にしか跳躍できないのだ。
ここまでは完全に予想通りだ。
今度は光輪を使い右拳で黒崎の首を狙う。これがもう一つの弱点だ。
AとBを入れ替える。それは逆に言えばそれしかできないのだ。この能力は最高でもX=足のつま先が移動最高距離なのだ。最高でもそこまでしか移動できない上に、Aの位置にはBが必ずある。攻撃をしかけた時に、いくら移動されようと、黒崎の首を、Aを狙っていれば必ずどこかの部位に攻撃が当たる。
それさえわかっていればこっちのもだ。
振り切った拳は黒崎の足、靴の甲に当たる。それだけで十分だった。
椋の能力『光輪の加護』は一撃が異常なほど重い。少し当たっただけでもそれなりのダメージを与えることができる。
予想通り、ほとんどかすっただけのようなものであたが黒崎の身体を二度三度と回転させながら吹き飛ばすことに成功した。
黒崎の足には光輪の『痕』が残っている。
「っ…やっぱり君最高に面白いよ!!!さすがに上から来るとは思わなかったな!」
ゆっくりと黒崎が立ち上がり、自分の左足を見て、調子を確認しながら続けた。




