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どうしてだろう。狂気じみた黒崎の笑顔が今は一片も見当たらない。まるでその感情だけ消え失せてしまったかのように無なのだ。
先程、二日目の開会式まではあれほど好戦的かつ狂気じみていた黒崎が今は何故こんなに無表情なのか、これでは逆に不気味過ぎるではないか。
二人の、というよりはこちらが一方的に睨みつけている構図になっているが、にらみ合いは続く。
そんな中とうとう試合開始を告げる司会者らしき人物のマイクを通した声が会場全体に響く。
『それではこれより、第3回入寮祭、各寮対抗試合最終戦、玄武寮代表黒崎泥雲VS麒麟寮代表辻井椋の試合を開始します!!両者OLの戦闘フィールドを展開……と言いたい所ですが、今回は特別に巨大なフィールドをこちら側が展開させます。追加ルールとして観客へのいかなる攻撃行為も禁止。戦闘時使用可能戦闘範囲は学園全域、有人の施設への侵入はできません。選手の二名に限り試合中は他寮への侵入を許可します。では両者位置についてください!!』
乙姫の時のことを繰り返さないためだろうか?ここまでする理由はわからないが、黒崎は相手を平気でフィールドから追い出すような人間であり、自分は破壊不能なはずのフィールドを殴り壊した人間だ。特別措置を取られたのだろう。あまりいい気はしないが、これで思い切り暴れられるようになった。
数歩前へ進むと指定された位置に立つ。黒崎の方も位置についたようで、無表情のまま目線だけはしっかりとこちらを向いている。お互いの距離は3mといったところだろうか。この距離なら一瞬で縮められる。
『それにしても黒崎の奴なんか変ですよね?なんであんなに無表情なんだろう…』
残った時間を使いぼやくように山根に問う。
『無表情……、やっぱり本物を持ってるのかしら…』
意味深な言葉が帰ってくるが、これから試合が始まってしまうため、とりあえずあとにする。
『暴れてきなさい!!』
山根の後押しを受た椋は気合をいれ能力を展開する準備をしておく。
両拳に力をいれ、左足を少し後ろに下げ構えを取る。
ついに司会者のカウントダウンが始まった。
ルール上このカウントダウンの段階から能力を展開しても良いということになっている。
『5…4……』
「『光輪の加護』……」
胸元のネックレスから金色の結晶光が溢れ全身を包む。光は四肢に行き渡りそれぞれに4ずつの光輪を展開する。
黒崎も何かをつぶやいているようで、鈍色の結晶光がうずを巻くように黒崎の周りにまとわりつき、無表情な黒崎の顔を覆う。
司会者は何事もなかったかのように続ける。
「3…2…1…試合開始!!」
宣言とともに無表情な黒崎の顔面を覆っていた鈍色の結晶光が霧散する。
その下には、いつもどおりと言ってもいいほど、いやそれ以上に膨れ上がった狂気、いや狂喜に満ちあふれた笑顔の黒崎がいた。




