学生たちの楽園6~試合と真実と嫌悪感~ 1
会場は実に静かだ。先程まであれほど騒いでいた観衆は皆が皆真一文字に口を閉ざし、この試合が始まるのを待っている。
しかし声には出さない期待のような物がひしひしと伝わってくる。それが椋の心臓の鼓動を早くしている。緊張なのだろうか?いや、これは焦りだ。自分のなかで妙な焦りが暴れようとしている。そう気がつくのにさほど時間はかからなかった。
試合開始まではすでに五分を切っている。
目の前には既に玄武の紋章を背負った黒崎の姿がある。彼が、彼の纏うオーラのようなものが椋の焦燥感を更に煽り立てているのだ。
自然と拳に力が入る。そんな右手から、正確に言えばOL から謎の表示がポップアップされる。
『……辻井君、聞こえるかしら?』
脳内に直接、というよりはフールと会話をしている時と同じような感覚で山根の声が頭に響く。同時にOLに目をやると、[教員仕様ObserverLicenseとの接続要請を強制認可、通話回線の接続を開始します]との表記がある。
『なんか強制認可とかいうおっかない表記が出てるんですけど!』
『教員用のOLは与えられている権限が違うの。さっきあなたを止める時に言ったでしょ?そんなこと簡単にできるって』
つまりは教員から生徒になら強制的に回線をつなげるようになっているらしく、わざわざこっちが認可を取ってからやるよりも、自分からやったほうが早いんじゃね?的な意味で山根は自分がやるといったのだろう。
『なるほど…』
このobserverlicenseという機械、思っているよりも厄介なものかもしれない。暴走した生徒を止めるためとは言え、一時的にでも人間を行動不能にさせるための権限を教員全員が持っているのだ。もしも出丘の時のように教師が洗脳されてしまった場合とんでもないことになるんではないだろうか?何かしらの回避手段も用意されているのだろうか?
『そんなこどうでもいいのよ。今はこれから始まる試合に集中しなさい。』
『はい…すいません…』
『約束は守りなさいよ。気を付けてね。』
そう言って会話が途切れる。回線は繋がったままなので話そうと思えばいつでも話せるが、彼女の言ったとおり試合に集中しなければならない。
敵は、黒崎は無表情に眼前に立っている。




