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「なるほど……確かに勝機が0って訳でもないみたいね……」
お互いに冷静になった二人はソファーに座っている。
椋は大まかにではあるが自分が《愚者》のホルダーである事、自分と《愚者》の目的、『愚かな捕食者』、そしてアレについても説明した。
山根も最初はあまり信用していなかったようだが、そのことを納得させる時の定番『移り気な旅人』を発動し多重能力者であることを見せつけると、彼女もなんとか信用してくれた。
「でも100%勝てるって訳でもないわよね…やっぱり危険だわ………約束してくれるかしら、1つ、フィールドから少しでも出たらすぐに棄権 2つ、少しでも身に危険を感じたらすぐに棄権すること 3つ、常に私とOLの回線をつないでおくこと。4つ、私の言うことには従うこと。それが参加を認める条件よ」
一本一本指を立てながら彼女がついに参加を認めてくれた。しかし引っかかる。
「試合中って誰かと回線を繋いでてもいいんですか?」
そんなこと昨日は一言も言われなかった。
「誰が繋いじゃいけないなんて言ったの?」
「でも昨日そんなこと一言も……」
「そんな手間取るような相手でもなかったでしょ?それに面倒だし♪」
テヘペロ的な表情でそんなことを言うもんだから心の鍋の温度が80℃くらいになってくる。
「……ま、まぁ条件は守ります」
拳をグラグラと揺らし少々の怒りをあらわしながら彼女に従う。
自らをルールという女性に反論したところで認められないのは目に見えている。
「本当に気をつけなさいよ…。いくら貴方に《愚者》が付いてるからといってあなた自身は生身の人間なのよ?戦えば傷つくし、限界を超えれば死ぬことだってあり得るの。それだけは忘れないようにね…」
「わかってます。それに、負ける気はありませんからッと」
そう言って真っ白なソファーから立ち上がる。
山根の真後ろ、つまりは椋の正面にかけてある時計の時間は試合開始まで後15分ほどしかないことを示していたからだ。
「そろそろ時間なんで僕行きますね。この回線ってどうやって繋げばいいんですか?」
右腕に装着されているOLを適当に弄り回すがそれらしきものが見当たらない。
というわけで山根に助けを求める。
「こっちでやっておくから貴方は試合に集中しなさい!頑張ってね…。気を付けて…」
そんな彼女の言葉を聞いた椋は一度小さく頷くと真っ白な部屋を後にした。
廊下はほの暗く、不安を誘いそうなそんな感じがする。
大きな扉に続く長い一本道を不安と山根の「気を付けて」という言葉を胸に抱きながらゆっくりと進んでいった。
第十一部 決戦前、謎




