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 反論は決して止めない。意地なのだろうか?自分でもいまいち理解できていない感情が、ここで引いてはいけないと叫んでいるような気がするのだ。

 「私は止めるわよ……。貴方からは勝利要素がひとつも出てこないもの……。それに貴方わかってないわ。もし貴方が戦って、坂本さんと同じような、いやあれ以上に酷い目にあって悲しむのは誰なの?あなたを応援してくれた、貴方を思ってくれる人じゃないの?今貴方がしようとしている事は仲間との約束を守ることじゃない、仲間を裏切ることと同じなのよ?貴方はそれでも平気だって言うのかしら?」

 言葉ひとつひとつに重さを感じるとはこの事なんだろう。他人の身を案じ、本当にその人のためになることを見極めて放たれる言葉だ。重くないわけもない。

 

 「僕だって人間です。戦うのが好きなわけじゃないですし、なにより黒崎が怖いです…。得体の知れない能力を持ってることだってわかります。でも……それでも、俺にはやらなきゃいけないことがあるんです!!戦わないで逃げるくらいなら…結果としてそれがみんなを裏切ることになったとしても…戦って負ける方が10倍マシです!!」

 自分自身の言葉は重みがあるのだろうか。山根美弥という人間にこの言葉は届いているのだろうか。

 

 白い部屋でテーブル越しに二人激論を繰り広げている。二人共立ち上がり顔を赤くして言葉で戦っているのだ。

 謎の単語『ギルティマテリアル』の正体なんてものはどうでもいい。ただフールと乙姫が言っていたことが正しいという事実が解っただけだ。ここで競っているのはこの試合にかけている思いの強さなのだ。

 自分がどれほどこの時を待っていたか、それが彼女の心に届かない限り、ここを通してはもらえないだろう。しかし山根も自分のことをすぐにどうこうしないところを見ている限り弁解の余地は与えてくれているようだ。

 (後もうひと押しできるものがあれば……。何かもうひと押し……)

 しばらくの空白が部屋に訪れる。お互い視線は外さぬまま、常ににらみ合って言葉を探しているのだ。

 押し通せる言葉は持ち合わせている。しかしこれを知るのは自分自身と《愚者》だけのトップシークレットというやつだ。別の何かを探さねばならない。しかしそれがどうしても見つからないのだ。


 『椋、御前の好きにしろ。我は所詮御前の中に宿る意思に過ぎん。現実で何をどうするかは全てお前が決めるのだ。思った通りににやってみろ』

 不意に寝ていたはずのフールの声が聞こえる。

 (起きてたのか…)

 『あんなに激しく感情が揺らいだら我にまで伝わってくる。』

 (ハハ……でもいいのか?アレを話しても…?)

 『言っただろう、好きな様にしろと』

 (わかった……ありがとう)

 

 「先生、お話したいことがあります。」

 そう切り出したと同時に、アナウンスが流れ、次の試合は時間調整のため1時間後に開催されるというアナウンスが入った。

 

 

 

 

 

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