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『俺は…俺は愚者だ……』
(聞いてるなら答えてくれ!君に…この状況を打開するほどの力があるのか)
心の中で念じる。正直答えなんて帰ってこないと思っていた。
『オマエが本当に望むのならば、いくらでもくれてやろうぞ。』
またあのウィスパーな声が脳内に響く。
(沙希を…大切な人を守るための力がほしい…。目の前の敵を蹴散らせるような…強さが…強さがほしい!!)
自分が念じたことはこの声の主に伝わるようだ。自分が言いたいことは全部言うことにした。
『それがオマエの本当の望みか?』
(これが俺の望みだ!それ以外、何もいらない!)
『オマエの望み、しかと受け止めた。呼ぶがいい、我が名を、貴様はもう知っているはずだ。』
(そうだ、俺は知っている。昔…どこかで?)
自分の周りを覆う赤紫色の光が消え去り、金色の光が集まってくる。
周りの不良たちの表情が変わり、ざわめきが広がる。
突然能力の効果が打ち消されたのだ。
椋の全身を金色の光が包み込む。優しく。とても暖かい。
今になって柊真琴の言っていたことの意味が分かった。
自分は死ねない、まだやるべきことが残っている。そう望んだから、そのために必要なエネルギーが椋を中心に集まったのだ。
そして椋は理解した。このエネルギーの塊があれば自分にも能力がつかえるんだということをことを。
もしかしたら、この状況を打開できる、何かがあるかもしれない。
自然に自分の口から言葉が出てくる。
「The…Fool…」
全身を包み込んでいた金色の光が自分の胸元に飛び込んでくる。
正確には胸元のネックレス。それに下がる指輪。その装飾につかわれている天然結晶にだ。
小林達は何が起きているか理解できていないようだ。沙希までもが目を丸くしている。
実際自分自身もあまり理解できていないのだが。
椋はゆっくりと立ち上がり自分の胸元から指輪を取り出す。
これまで透明だった結晶に、金色の粒がちりばめられている。
粒の一つ一つが、まるで夜空に輝く幾千もの星のようだ。
グッと指輪を握りしめると、拳の隙間から光がこぼれる。
力があふれて来るのがわかる。拳の先から伝わってくる。
(なぁ…君はこの力の使い方を知っているのか?)
声の主に問う。
『本能のままに振るってみるがいい。安心しろ、リミッターはかけてある。死にはしない。』
その声音に偽りを感じることはなかった。
椋自身もその声を疑うことなく、入口の前にいる、先ほどまで椋を苦しめていた能力者たちの方へ、大きく、一歩踏み出した。




