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一通り泣き、心が落ち着いた頃にとんでもないことに気がついてしまう。というよりは気付かされてしまう。
『椋、いくらでも泣くのは自由だが、闘技場の入場制限時間まであと1分ないぞ…。』
(へ?)
鼻をすすりながらOLの時計を確認する。現在の時刻8時59分03秒………。
「なんでもっと早く言わないのォォォォォォ!!」
思わず屋上でひとり叫んでしまう。
しかしこれは真剣にマズイ。数十秒遅れたほどじゃ何も言われないだろうが、この病院からスタジアムまではどれだけ急いでも20分はかかるだろう。
自分が責任者だとしても20分も遅れた奴を選手として認めるほど優しくはなれないだろう。
(どうしよう!!どうしよう!!まずいよ!!カッコつけて黒崎倒すとか言いながら、直前で逃げたとか思われちゃうよ!!俺超ヘタレだと思われちゃうよ!!)
現実でも心の中でもわたわたと慌ててしまい、ついにフールからの喝が入る。
『落ち着け!!椋、ヘタレなのも格好付けなのも否定できないだろうが!』
(お前だけは否定してくれると信じていたよ……。)
『そんなことよりも方法はあるだろう。出丘を拉致した時の事を思い出せ!』
(なんでこのタイミングで出丘の名前が出てくるんだ?俺あの時何か……………っそうか!)
あの時出丘を拉致するとき俺はどういう行動をとった?そうだ、能力を使ったのだ。
今屋上には誰もいない、ここなら問題ない。乙姫のぬくもりが残る右手で天然結晶を握り込む。
「『光輪の加護』!!」
拳の隙間からあふれる金色の光が全身を包み、四肢に行き渡る。光輪は四肢にそれぞれ4つずつ形成される。
(フール、方角はわかるか?)
『我を誰だと思っている。このまま直進、ここから見えるあの青くて高いビルまで行けば見えるはずだ!』
椋の能力『光輪の加護』は目的地さえ目視できればそれがどんなところだろうと移動することができる。
ここらで一番高い所に行き、そこからスタジアムを目視できたらいいのだ。迷ってる時間はない。
呼吸を整え、心を落ち着かせる。
「飛べぇぇ!!」
叫び、そのまま一歩踏み込んだ。




