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『人工結晶だ。あれなら二重能力でもおかしくないはずだ。』
『それは無理だよフール。人工結晶とナチュラルスキルの複合戦闘はあまりにも難易度が高過ぎるし、そもそも黒崎自身の鈍色の結晶光しか目視できなかった。そして何よりアイツは人工結晶を身に付けていなかったはずだし。』
椋の全否定にフールが抗う。
『黒崎の強さはお前もその目で見ただろう。人工結晶は指以外のところにはめていたならば、服の下に隠していたならば気が付かれないだろう。』
『じゃあ結晶光は?』
フールを問い詰めるように質問を飛ばすが、帰ってきた答えは納得せざるを得ないものだった。
『人工結晶の結晶光が鈍色だったとしたらどうだ?』
『そうか…。それなら確かに不可能じゃない…。』
それならば…しかし…誰にでもできるというわけではない。
『ごめんフール、ちょっと出ても良いかな?』
『わかった。少し待て。』
そういって十秒ほどたったところで眼前の暗闇は一気に晴れ、もとの病室に、傷だらけの乙姫のいる病室に戻る。
「それは…人工結晶とか?」
しかし帰ってくる答えはわかりきっていた。
はずだった。
「違うと思いますわ。なにせ召喚系でしたもの。」
それは予想外なものだった。
二重能力者は何例か確認されているのものの、別系統の能力を持っている人間は一例もない。必ず同一系統の能力しか宿らないはずなのだ。
黒崎の移動能力はおそらく特殊系、二重能力ならばもうひとつの能力も特殊系でなければならないはずなのだ。
「けど、それって…。」
「私だって確証をもてる訳じゃありませんよ?しかしそれじゃなければこの怪我の量の説明がつきませんし、何より、ほんの一瞬だけ戦闘中に黒い何かが見えたような気がしたんです…。」
わからない事ばかりだ。彼女が嘘をついているようにも見えないし、つく意味もない。
しかし全くといって良いほど例外だらけだ。
考え込んでいるとフールの声が聞こえる。
『常識にとらわれすぎるな。世の中の理全てに例外は存在するのだ。それだけ覚えておけ。』
それだけ言い残すとフールは眠ったかのように静かになった。
(例外か…。)
わからない事ばかりだとしても、時間は止まらない。時計を確認すると、もうすぐここをでないとスタジアムに間に合わないほどまで時間が迫ってきていた。。
手ぶらなのでまとめる荷物もなく、
「ごめんそろそろ時間だ…。」
そう言い残し、逃げるように病室を去ろうとする。
結構な早足で出入り口に向かって歩く。ドアのボタンに手を伸ばし押し込もうとした。




