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先程からだんだんと部屋の雰囲気が暗くなっていく。
しかし契の決意はその程度では砕けなかった。
「どうしても……どうしても聞きたいんです…。失礼なことだって理解してます……。お願いします!!」
そう叫び、きれいな土下座をする。
何が彼にここまでさせるのだろうか。
フッと息を吐いた大宮は
「私は吹っ切れてるから全然いいの。でも辻井君はどうなのかな?」
と自身の隣にいる椋に話をふる。
ズキンッと来る質問だ。正直に言えば掘り返したくない過去である。
一応はハッピーエンド?として終わった事件ではあるが、とても辛く苦しい思い出である。
「僕も…大丈夫です。そのために今日契に話すと約束したんですから」
一度大きく深呼吸し少し早くなった心臓の鼓動を落ち着かせる。
「けど契、俺の話が終わったら、契のことも話してくれ。それが条件だ」
交換条件を付けるような大層な話ではないが、永棟契という人間が心の中に何を抱え込んでいるのかを知りたくなったのだ。彼がどうしてここまでエレメントの情報を欲するのか、興味がわいてしまったのだ。
「わかった……、約束する」
会話を終えたのち、長い沈黙が訪れる。会話を始めるタイミングは椋自身が決めるのだ。
うまく切り出せないが、その思い口を開き自分に起きた一連の事件すべてを話し始めた。
全ての始まりである幼少期の拉致事件。《愚者》の衰滅
それから発展して起きた自殺の決行。《愚者》の回復
沙希を巻き込んで起こった小林の事件。《愚者》の覚醒
そして《悪魔》出丘との最終決戦……………………
人口結晶、天然結晶とわず能力が一切使えなかったことも。
なぜこれまで『愚かな捕食者』を公の場で使わなかったのかも。
《愚者》の目的も。全て話した。
今でもすべてが鮮明に思い出せる。
4、5歳の記憶までもが断片的に蘇ってくる。
フールが初めて喋りかけてきた時のことも。
苦しい生活も、そこにあった救いの手も。
小林の事件………廃墟倉庫での集団暴行事件は他の3人の記憶にも新しいいらしい。少々驚きの表情が見えた。
やはり辛い思い出だ、思い返すだけでこみ上げてくるものがある。
誰も何も言わず静かに聞いてくれているわけだが、一様に表情は沈んでいるように見える。
決して笑えるような話ではないことは自覚しているためどうしようもない。
「これで俺の話は終わりだ……。契、話してくれるか?」
無理やり契にバトンタッチし、この嫌な空気を払おうとする。
「そうだよね…ここで逃げたらダメなんだよね…。」
そう言って今度は契が語りだす。
時刻はそろそろ11時を指そうとしていた。




