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『こんな所じゃなんだし、とりあえず移動しない?』
そんな大宮の提案により、4人は契と懋の部屋に移動することになった。
椋の部屋だと途中で新田が帰ってくる可能性がある。そうなれば確実に面倒なことになる。
なんてったって女生徒を男子寮に連れ込んでいるのだ。少し…いや、かなり面倒なことになるのは明白だろう。
しかし、寮内の部屋なら先程のように盗み聞きや乱入者が現れることはまずないだろう。
そんな感じの理由でこの部屋になったのだ。
当初は大宮の部屋で話そうと言っていたのだがそれは残りの3人、というよりも男子勢が猛反対をし何とか押し切ったのだ。確かに女子寮の方が男子寮に比べて防音設備やらセキュリティやらが数段グレードが上だという事は沙希達から聞いてはいたが、思春期真っ盛りの男3人に女性の部屋に侵入するという勇気も度胸も存在しなかったのだ。
第一寮の夜は長い。男子寮女子寮ともにまだ黒く、ほとんどの部屋に光が見えない。男女問わずほとんどの生徒が宴を楽しんでいるという事だろう。
ここまで盛り上がられると明日の試合負けられなくなってしまう。いや、もとより負ける気はないのだがプレッシャーというものはこういう時にしつこく付きまとってくるものだ。
そんなどうでもいいことを考えつつも歩みは止めず、気がつくと契と懋の部屋に到着していた。
部屋の中央に設置されている長方形のガラステーブルの周りに皆が腰かけ鋭く。
部屋の東側には椋と大宮が、西側には契と懋が向き合う形で座っている。
「ん~。どこからはじめよっか……」
大宮が右人差し指で顎のあたりをぷにぷに突つきながら考え込んでいる。
少しの沈黙が暗い部屋を包み込む中、それをさらに暗くするような発言を契がつぶやく。
「僕、1つだけ知りたいことがあるんだす…。その…椋や先輩がエレメントを宿した時の状況を教えてくれませんか?」
この探究心はどこから来るのだろうか。なぜそんなことを知りたいのだろうか。それを理解することが椋にはできなかったが、契が興味の範囲で尋ねているのではないという事は彼の眼が物語っていた。
しかし、それに対して先程までとはとは別人のような……、あまりにも冷たい目線で、あまりにも冷酷な顔で、白い掌にギュッと力を込め、
「永棟君だったよね…。1つ教えておいてあげる。エレメントホルダーはみんなが皆というわけではないけれど、過去に何かを抱えてるの。軽々と聞いていいようなもんじゃない大きな傷を抱えてることだってあるの。おそらく辻井君もね…」
いつもより低く体を震わせるような声で彼女はそういったのだった。




