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「私ね、昔父親から暴力を受けてたの。まぁほんとの父親じゃないんだけどね。私お母さんの連れ子だったの。父親の方からしたら、ほかの男との間にできた私は邪魔だったんだろうね。5歳の時からだったかな?初めて暴力振るわれたの…」
今の明るそうな彼女からは想像もつかないほど暗い話に、椋は何も言わずに耳を傾ける。
「小さいころはまだ緩かったの、いや、それでもいけないことなんだろうけど、抓るとかそんな感じ。でもね?年を重ねるたび、体が大きくなるに連れて暴力も大きくなっていった。酒癖が悪いとか、そんなんじゃなくてホントに私が邪魔何だろうね。8歳頃には殴る蹴るに変わっていったんだ…」
どんどん顔が悲しげに染まっていく。
「でもね、ある時パタッと暴力がなくなったの。弟が生まれたから。父親も人が変わったように優しくなった。本当に…。本当にやさしくなったの。私は邪魔から無関心になった。全然それでよかった。けど、次はお母さんだった。父親が愛情を向ける対象が弟に全部向かっちゃったから、父親はお母さんに一切構わなくなった。そしたらお母さんの鬱憤が全部私に飛んで来たの。けどお母さんは父親より質が悪かった。見えないところでね…。酷いときはご飯にゴキブリを三匹ほど突っ込まれたこともあったし、服を全部捨てられたこともあったかな…」
耳を塞ぎたくなるような話しだが、ここでこの話を止めてはいけないような気がした。
それを知ってか知らずが、大宮は少し声量を上げ続ける。
「中3の3学期くらいかな?1月ごろだったと思う。私ね、卒業したら働こうと思ったの。親が学費を出してくれるかわからないし、あんな家に少しでも長くいたくないっておもって。けどね、中卒で仕事なんて全然見つからなくって、だらだらと卒業を待つだけの生活を送っていた。でもそんな時に中学の私の家の事情を知ってる先生がこの学園を紹介してくれたの。事前にある程度受験内容も教えてもらった。けど私のナチュラルスキルはそういうのに向いてる能力じゃなかったから、学力で勝負しようと思ったの。ずっと貯めてきたおこづかいを使って夜遅くまでファミレスで過ごして、銭湯にかよって、寝るところは私のナチュラルスキルを使ってなんとかして野宿。ほとんど家には帰らなかった。両親から捜索願いなんてものは出されずに二ヶ月ほどそんな生活を送ったの」




