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対応が雑になったのは少し面倒くさかったからだ。
一人にしてほしかったというのが正しいだろうか。
ある程度の常識を弁えたうえでの反論ではあるが、流石に大宮も少しシュンとしてしまっている。
「で、先輩はどうやってここに上ってきたんですか?」
そんな椋の質問に、人差し指で顎のあたりを押さえながら、ん~、と唸り
「キミたち一年は知らなくてもおかしくないかもしれないけど、ここ結構穴場というか、第一寮の名所なんだよ?美弥ちゃんがハシゴつけてくれたから誰でも登れるようになってるしね」
美弥ちゃん…。頭の中でどこかで聞いたことがあるような名前がちらつくが答えが出てくる前に、
「ああ、美弥ちゃんっていうのは寮監の事ね?山根美弥、美弥ちゃんは山根先生って呼ばれるの嫌いらしくて、生徒のみんなに自由に呼ばせてるの」
「そ…そうなんですか…」
そんなどうでもいい話を聞いたところで、ここには居たくない、一人になりたいという気持ちから椋が、光輪を展開し、その場から立ち去ろうとする。
「すいません先輩、僕そろそろ失礼しますね」
そういって踵を返し、何もない、屋根の外側に向かい足をだし、跳躍をしようとする。
しかしそれは成功しない。足が地面に着かなかったからだ。
椋の右手は大宮に引っ張られて、今にもバランスを崩しそうになる。
不安定なバランスを取り戻そうとどうこうしているうちに、屋根の内側に向かい転倒することに成功し、どうにか危機を避ける。
ふぅ―と額の冷や汗を左手でぬぐうと、自分の下から、
「オ・・・オモイよ、辻井君…」
と、だんだん力なくなっていくような声が響いてくる。
とっさに自分が大宮を下敷きにしていることに気がつき、全速力で彼女から離れ、全身全霊で彼女への謝罪を行う。
見事なほどの土下座の姿勢をとがった屋根の頂点で行い、
「すいません!ホントごめんなさい!」
と叫ぶ。
屋根より下は、ほとんどが宴のせいで騒がしく、この声も聞かれていないだろう。
起き上がった大宮は癖のある髪を揺らしながらこちらに向かい走ってきて、椋の隣にまで来ると、そこに座り込み、
「お話しない?そしたら許してあげる!」
とニヤついた顔で謎の交換条件を出してくる。
あまり先輩方とのいざこざを起こしたいわけでもなく、契は宴を楽しんでいるだろうと予想した椋は、契との話し合いの時間までの暇つぶしを彼女ですると決め、その案に乗った。
「構いませんけど…。僕なんかと話すことあるんですか?」
そういう質問に、対し、彼女からはあまりにもくだらない質問で返される。
「そうなんだよ!実はとっても気になることがあるんだよ!!」
「何でしょう…?」
何となく予想がついてきた椋は次の回答への準備をする。
「ズバリ!朱雀寮1年代表坂本さんと、辻井君は付き合ってい……」
「付き合ってません」
と彼女に対し今度は-2秒で否定を入れる椋なのであった。




