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あまり長くない乗車時間を終え麒麟寮の寮土に到着する。
椋と沙希の2人は地下のホームから麒麟第一寮の前への直通エレベーターに乗り込み、とりあえずは自分の寮に戻ることにした。
彼女曰く、「一日目完勝祝いがあるから、みんな待ってるよ。」とのことだったので、今の精神状態的にあまり気は進まないが、寮のみんなの気遣いを無駄にするわけにはいかないため、参加することに決めたのだ。
エレベーターは麒麟第一寮へ徒歩2分位しかかからない位置に設置されており、本当に目と鼻の先に寮が見えた。
「いこっ!」
と沙希が椋の左手をぎゅと握り走り出す。
あまり早くはないスピードではあるが、彼女に手を引かれるままに麒麟第一寮の門をくぐった。
〇~〇~〇~〇
とりあえずいったん自室に戻る。
沙希には「後で中央ホールに来てね!」と念押しされているので、サッサと準備をすまそうとする。
部屋にはだれもおらず、堅苦しい服を脱ぎ棄て、動きやすいジャージに着替え、中央ホールに向かう。
部屋を出ると正面の部屋から契の声が聞こえた。
何やら切羽詰ったような、緊張感のある声だけが聞こえてくる。
おそらく誰かと電話しているのだろう。
今日は契と少しトラブルがあったため、一度話をしなければいけないと思っていた。
コンコンッと木製のドアをノックし、ドアノブを回す。
ベッドの上にいた契が、
「どうしたんだい、椋?」
昼間とは違いいつも通りの態度で話しかけてくる。
「ごめん電話切っちゃった?」
「いや…気にしなくていいよ。それより用事は?」
何か少し焦っている様子が見られるがとりあえず、用件を伝える。
「契、昼間言ってたよな?《愚者》のこと…。君は《愚者》なのか?って。」
契が《愚者》という言葉に反応するようにビクッと肩がはねた。
「本当だったのかい?本当に君は《愚者》を宿しているのかい?」
飛んでくる質問に椋は一度だけ首を縦に振り、
「そのことについて今日話をしよう。少し長くなるけど、今中央ホールでやってる祭りが終わった後時間あるかな?」
と尋ね返す。すべて話すと決めたのだ。
幼少期の事も、小林の事件も、出丘の事も、すべてだ。
契は異常なほどに、《愚者達》のことっを気にしているような気がする。
彼も何か悩みを抱えているのかもしれない。
そう思っての決断だ。
「もちろん!お願いするよ」
「あまり楽しい話にはならないからね……。とりあえず、パーティーに行こう!」
「うん!」
とりあえず契との気まずさを解消し、二人で中央ホールに向かうことにしたのだった。




