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学生たちの楽園4~現在ここにいる理由~ 1

 ようやく、このスタジアムから解放され、大きな門をくぐり自分の寮へ向かうための電車へと向かおうとしていた。

 辺りはすでに暗く、時計を確認するとすでに時刻は21時を回っていた。

 いったいどれほどの時間この建物の中にいたのだろうか。

 無事に白虎戦は勝利を収めた。


 しかし勝利への喜びが沸かない。

 あの乙姫の悲惨な悲鳴が頭に張り付いて離れないのだ。


 あの朱雀VS玄武戦の後、何があったのかは自分でもいまいち覚えていなかった。

 白い部屋の戻り、散々山根の叱責を受けたのち、次の自分の試合へと挑んだはずだ。

 試合への乱入は、前後の黒崎の行動もあり、実質的にお咎めはなかった。それならなぜ黒崎を責めないのか。あれは誰がどう見てもわざとフィールドからはじき出している。酷ければ今後一生体に残る傷、いや黒崎を見ているとその先まで行ってしまいそうな気がする。

 それを想像してしまい、胸のあたりから怒りが込み上げてくる。

 すべてが黒崎への怒りではない。自分自身の怒りもそこには含まれている。

 もう少し、もう少しだけ速ければ、せめて最後の一撃だけでも身代りになれたら………。

 現状ではぶつけようがないこの怒りを必死にこらえて、明日の第10試合、最終の黒崎戦にすべてぶつける。そう決めたのだ。


 歩き続けていると、足下のタイルの色調がガラッと変わる。

 駅についたのだと理解した椋はフッと顔をあげた。と同時に


 「うぁっ!」 


 と間抜けな声を上げ、後ろに下がってしまう。

 何せ3センチほど前方、まさに目と鼻の先に、黒いセミロングの少女がポカンとした顔でこちらを見ていたのだ。

 向こうも驚き、後ろに下がっていった様で、現在の二人の距離は1メートル前後だろうか。沙希が少し暗い顔をしながら、


 「迎えに来たよ……」


 と手を伸ばしてくる。


 「ああ……」


 そんな返事に、彼女も何か察したのか、沙希がそっと両手で椋の左手をつつんでくれた。


 「苦しいの?」


 そんな彼女の問いに、椋は首を横に振る。


 「じゃあ悲しいの?」


 先程よりも大きく首を振り、


 「怒ってるんだよ。黒埼にも、乙姫にも、そして俺自身にも……」

 「なんで自分に?」


 そんな沙希の問いに正直に、自分が先程まで考えていたことを答える。


 「あと…後もう少しだったん……。ほんのちょっとでも早ければ、少なからずあんな骨折はしなくて済んだはずだ……。間に合わなかった自分がどうしても許せないんだよ…」


 素直に答える。別に格好をつけたわけでもない。正直笑われると思っていた。「考えすぎだ」って笑い飛ばされるんだと思っていた。

 しかし、そうはいかない。

 椋の左手を握っていた沙希の両手は、するりと離れ、そのまま肩の上をすり抜け、首の裏で固く結ばれる。


 「そんなに思いつめなくてもいいんだよ……?すべてがすべて椋のせいじゃないんだから……」


 耳元で呟かれるその言葉が、少し涙にぬれているような気がした。


 「かっこよかったよ?朱雀の人を助けに行った時の椋。でも一人でしょい込んじゃダメだよ。その怒りを自分だけに向けないで。それも皆で分かち合いたいんだよ……」


 彼女の頬を伝った涙が椋の頬にもぶつかる。

 椋には、今は何も言わず、ただ抱きしめてくる彼女の背中に両腕を回し抱きしめることしかできなかった。

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