14
ビィィィィィィィィィィィィイィィッィイィィィィィと会場全体に大きなブザーが鳴る。
一気に会場が静まり返るが、それを椋の声が打ち破る。
「救護、早く!!」
それを聞いたスタッフが慌ただしく何人もの赤十字のヘルメットをかぶった連中を連れ、乙姫のもとに集まってきた。
そんな時、自動音声のような声で何かが、
『フィールド欠損ヲ確認、戦闘ヲ強制終了シ、ダメージ計算ニヨル判定トシマス。集計マデシバラクオ待チクダサイ』
そんな機械音に続くように司会者があせあせとしながら、結果をしゃべろうと必死に言葉を探る。
『ええと……試合…終了です…。集計によりますと勝者は玄武寮黒崎選手とするとのことです……。』
会場からは第三試合の時以上に拍手が沸かない。
そんな結果はどうでもいいから早く彼女の手当てをしてくれ……。
真剣にそう思う。
試合終了の放送の直後に乙姫は気を失い、今も右腕を不自然な方向に曲げながらぐったりとしている。
彼女の負傷は右腕だけに納まらなかった。何度も黒崎が踏みつけたせいで全身がボロボロになっている。
どうやったらここまでできるのか……
椋には担架に乗せられた彼女が救護班に連れられ別室へと運ばれていくのを見送ることしかできなかった。
悔しい……。もう少し…もう少しだけ早くフィールドを壊せていたなら間に合ったかもしれない。
他寮の、しかも今後戦うことになるかもしれない乙姫のことをかばっているなんて言うことはもうすでに頭にはなく、ただ自分のふがいなさだけが脳内を圧迫していた。
スタジアムに残った椋と黒崎。
うなだれる椋に声をかけてきたのは黒崎のだった。
「クフッ…ハハハ!きみ面白いね!このフィールド君が破ったんだろ!?絶対破れないって聞いてたんだけどね。」
そんな黒崎の言葉に脳が沸騰しそうになる。
「なんでだ…!なんでそんな風に笑ってるんだ……!自分がなにしたかわかってんのか!!」
「何言ってるのさ!試合中に偶然フィールドの外に出ちゃった彼女が、君の言う事を聞かずに試合を続けちゃったからこんなことになったんだろ?」
「何が偶然だ!何が言う事を聞かずにだ!!乙姫がリザインを宣言できなかったのはオマエが原因だろ!」
そんな椋の発言に、「プッ」と吹き出す笑いをこらえるかのように手で口を押えながら、黒崎が言う。
「やっぱり君面白いね!僕は普通に戦っただけじゃなかったかい?そしたら君がフィールドぶっ壊して侵入してきてさ。こっちは試合ぶっ潰されてるんだよ?謝罪の1つでもほしいくらいさ。」
さすがの椋もその発言に堪忍袋の緒が切れた。
一気に彼との距離を詰め右手で胸ぐらをつかみ、力のすべてをかけ彼を持ち上げる。
「黒崎ィ!ふざけんじゃねぇぞ!なんであそこまでしたんだ!そこまでする必用はあったのか?オマエは!お前は!!」
「オマエは、何かな?それにふざけてるのは君の方だっていってるだろ?ほら!謝ってよ!さぁ!」
挑発だという事はわかっている。しかしもう我慢というものが椋の中から消え去っていった。
「黙れぇぇぇ!」
左手の光輪を消費し、黒崎の顔面をつぶす勢いで彼に殴り掛かろうとする。
しかし彼はそこにいない。
気がつくと椋の視界は天井を向いていた。
(いつの間に…仰向けに?)
と一気に冷却された頭で状況を分析する。
これまでのことを考えると黒崎の能力で飛ばされたのだろう。
そのまま腰から落下する。
「ハハハハハッ!君最高に面白いよ!明日、楽しみにしてるよ。」
と、自分の足元で高笑いしていた黒崎が踵を返し、スタジアムから退場していった。
冷却された頭で考える。
そうだ!今じゃなくても、黒崎に反撃するチャンスがあるじゃないか!
明日。最後の試合、今の憎さ、悔しさ、そして乙姫の無念をすべてをそこにぶつける。そう誓ったのだった。
第九部 各寮対抗試合1 終




