11
先手必勝、か。小柄な赤い鶯は黒崎の周りを猛スピードで何度も何度も廻る。
赤鶯の後に続く尾の炎は周回を増すにつれて黒崎の全身をつつみ、本当に黒こげにしてしまうんではないかという勢いでメラメラと燃え盛る。周囲の温度を上げながら赤鶯の周回スピードも比例して上がっていく。
まさに子朱雀といった感じの能力だ。
基本的に召喚系は個々の能力のバリエーションが多いところに利点がある。
入学式の時に戦ったとある召喚系の少年は、子犬を召喚していたが、その子犬には、移動加速、跳躍の高さも異常だったし、牙を一時的に成長させ鋭く獰猛な牙にする能力も所持していた。そして極めつけに唾液に融解液のような特性があるようで咬んだものを猛烈な勢いで物を溶かしていた。
主である能力者の指示に従うが、決して操っているわけではない。あくまで指示を送りそれに従わせるのである。時には指示の意味が理解できずに上手くいかないこともあるとか。そういうことは長い間の地道な努力で召喚獣との絆を深めていかなければならないのだ。
時に懐かない召喚獣もいるとかいないとか…
あの入学式の時も大半の敵を秒速で伸していたため、あれ以上に能力があるのか無いのかはこちらの知ることではないが、現出系に比べるとその差は歴然である。
しかし現出系が召喚系に見劣りするわけではない。
現出したものはまるで自分の体の一部のように扱える上に自身で操作しているため、召喚系のように指示が伝わらないなんてことがない。
能力は1つの現出物に対して基本的には一つだが、応用を聞かせることもできる。
たとえば真琴。
彼女の『可視化の片眼鏡』は不可視のどんなエネルギー体でも可視化することができる、というだけ、と言ったら失礼かもしれないが…。まあ能力の特徴としてのメインはそこにある。
彼女曰く、それを応用すれば、簡易的なレーダにすることもできるし、敵が能力者であれば能力を使うタイミングがエネルギーの流れで把握できるため対策をとりやすいだとかetc.で、それなりに使い道があるとのことだった。
モニター越しに思いながら脱線しかけた思考を試合に戻す。
数秒し、炎が落ち着いてくる。が、小さくなっていく炎に黒埼の姿はない。
さすがに燃え尽きて灰になったという事はないだろうがどこに行ったのかがわからない……
いや、そんなことはない。彼の能力はVS白虎戦で一応は確認している。
フッと視線をモニターの上部にやる。
乙姫の派手な能力のおかげで実に目立たない場所に黒崎は浮遊していた。
浮遊という割に安定はしていない。モニターから見ると彼は目測ではあるが7メートルほど上に点滅するように浮いていた。
本当になぜか点滅しているように見える。それが彼の能力なのか……
黒崎は空中で仰向けになりながら脱力したように両手を広げ、結構な距離をスッと落ちていく。
さすがにこの高さからこのまま落ちたらマズいだろうという高さを何の補助もなしに落ちていくわけだが、着地の寸前に再び彼が点滅したかと思うと、仰向けだったはずがいつの間にか90度回転し再び乙姫と向かい合う形でゆっくりと着地をする。
黒崎は眉間にしわを寄せ少しつまらなさそうな顔をし、
「なんだ…こんなもんか……」
と、ボソッとつぶやいた。
まるでもっと強くあってほしいと、つまらない試合をさせるなといったことが伝わってくるその言葉とともに、彼の気味の悪いオーラが一気に広がる。
終わらせる気なのか…
椋の背中にゾクッとものすごい寒気が走った。




