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 目の前には抽選の時に会った時と変わらぬ、背丈の高い坊主頭の少年が立っている。

 予想とは違い、彼の眼には闘志が見られ先程の乙姫戦とはまるで別人のように見える。

 試合開始の5分前にスタジアム中央に着いたのだが、須山の方はそれよりも早くについていたようで、5分間地獄のような無言のにらみ合いが続く。

 目をそらしたいところではあったが、今ここで視線を別の所へやってしまっては負けたような気がしてしまうため必死ににらみ合っているのだ。

 無言のまま時間だけが過ぎていき、残り30秒ほどを切ったところでようやく須山が口を開いた。

 「先程のようにはいかんぞ。蒼龍の名に懸けてお前を打ち砕いて見せる。」

 朱雀戦とは違い、冷静さが見える須山から出た迫力あるそんな言葉に思わず視線をはずし一歩下がってしまうが、ギュッと拳を固く握り再び須山を睨みつける。


 突然何の宣言もなしに椋のOLから黄色い何かが展開される。

 昼間に麒麟第一寮の中央ホールで見たバトルフィールドだ。須山の方から青色の何かがこちらに向かってきて、二人の頭上でその二つがぶつかり合う。

 見事なほどに色が混ざり、緑の戦闘フィールドが形成され、司会者がマイクに向かい叫んだ。

 

 『試合開始前からかなりの緊張感が伝わってきます!これはいい試合になりそうです!それではこれより蒼龍VS麒麟開始します!』

 そんな司会者の、こちらの気も知らない発言にムカっときつつも、試合開始と共に気合を入れるためにも大きく叫ぶ。

 「『光輪の加護』オウレオール・プロテクション!!」

 その声と共に椋の胸元から金色の光が放たれ、四肢にそれぞれ4つずつの光の輪を形成する。

 派手な結晶光に少々会場が沸く。須山自身も少し驚きのような表情を見せている。

 1日に2試合行うので、一回の戦闘では四肢の光輪をそれぞれ2つずつしか使うことができない計算であるから

無駄遣いはできない。そうしっかりと認識したうえで右こぶしを一度開きもう一度ギュッと握る。

 

 気絶させればいいのだ。とりあえずそれだけ胸に刻みつけ、右足で一歩大きく踏み込む。跳躍先はもちろんと言ってはなんだが須山の左正面、屈みこんだ状態で移動が完了する。

 屈伸時の勢いを拳にのせ、須山の腹に右拳を叩き込み、そのまま空中に打ち上げる。

 『光輪の加護』の効果もあり、くの時に折れ曲がった須山は3メートル程の高さまで行き、そのまま墜落する。

  これがたったの5秒ほどで起こったのだから、会場が唖然としないわけがない。

 須山はうつぶせのまま姿勢を変えない。フィールドが展開され続けているという事はまだ彼は気絶していないのだろう。

 状況が呑み込めず、ポカンとしている者がほとんどだった。


 しかし、それは椋も同じだった。須山は3メートルほどの高さから、この固そうな床に落地たはずなのに。


 なのに…なぜか墜落時に音がしなかったのだ……。

 

 


 



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