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司会者はあまり触れていなかったが、今回の試合も結構な速度で終わってしまったため、次の時間までの待ち時間が結構長く残っていた。
先の試合を真っ白な部屋で二人観戦していた椋と山根は二人黒崎の能力についての考察をしていた。
「まぁ、移動能力拡張って事は確かね。」
そんな山根の考察に椋も頭を縦に振る。
「系列はわからないですけど、僕もそう思います…。」
「瞬間移動はただでさえ面倒くさいのに、彼はもっと面倒ね。」
山根がお茶を啜りながらいった言葉に、
「何が面倒なんですか?」
という質問を返す。山根は一つ大きなため息を付き呆れたような顔をしながら椋に言う。
「見たでしょ?白虎の子が一緒に移動してるのを。珍しいのよ?瞬間移動能力で他者も一緒に飛ばせるのって。」
「ほぉー。そうなんですか…。」
と思わず感心してしまうが、《愚者》の能力、『光輪の加護』も他人から見れば似たようなもだということを椋はまだ気がついていない。
「ところで辻井君、貴方の能力ってどんなものなの?」
そんな意表を突かれた質問に、自身の『愚かな捕食者』と言えばいいのか、≪愚者≫の『光輪の加護』と言えばいいのか一瞬迷ってしまったのである。
いや、もちろん≪愚者≫の『光輪の加護』の方を自分のナチュラルスキルと偽って答えるべきなのだろう。
契に隠した時もそうだったが、《愚者》のことはあまり口外しないようにしている。絶対に隠さないといけないわけではない。しかし、真琴にあまりペチャクチャ話しまわるなと釘を刺されてしまったのである。
そもそも自分と同じ憑りつかれている者達には認知されてしまうのだ。そもそも学園長が《魔術師》の正の能力者らしいので、ばれるのも時間の問題だろう。
時が来たら契にも懋にも明かそうとも思っている。小林の事件から出丘のこと、フールの事も彼と初めて出会った事件も彼の目的も全部だ。あんな出来事を話すのはどうかとも思うが、彼らは親友だ。隠し事を続けれるほど器用ではないし、何より嘘だけはつきたくない、とそう思ったのだ。
自分の思考が、山根との話からだいぶそれてしまっているので、軌道修正して山根に説明する。
「一応『光輪の加護』っていう能力で、言うならば特殊系列の攻撃能力拡張と移動能力拡張の混合能力ってところですかね。」
「ほう。なかなか便利そうな能力ね。」
そんな山根の反応に、椋はすぐさま否定をはさむ。
「確かに便利ですけど、回数制限がありますから…。」
自分でもこれがなかったらどれほど素晴らしい能力かと思ってしまう。
「回数制限ね……。じゃあここでは見せれないってわけね…。」
「形だけなら…展開しましょうか?」
少し山根が見たそうな顔をしていたような気がするが、それを抑えるように、
「結構よ。次は貴方の試合なんだから楽しみに待ってるわね。」
そんな話をしているうちに時間はどんどん過ぎていくが、それでもまだあと10分ほど時間に余裕がある。
「あ、そうだ辻井君、今あなたは麒麟寮代表っていう身分だから、学年関係なく寮生全員のOLにアクセスできる権限を持ってるんだけど、それを使えば指定のメンバーとこの部屋でライブチャットできる訳よ。してみる?」
少し悪意ありげな笑みを浮かべながら山根がそんなことをいってくる。
実際かなりありがたい提案だ。この微妙に緊張しているときに仲間の顔を見て、さらに声まで聴けると安心できるに違いない。
「いや、いいですよ。もう伝えたいことはあらかた伝えましたから。」
そういって山根の提案を蹴る。
「そう?つまんないな…。」
「何をたくらんでたんです!?」
彼女の行動の裏には何があるかわからないという事を改めて理解した椋なのだった。
テス勉はメンドクサいです…
評価等いただければ頑張れます!




