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それは突然だった。
試合開始の合図とともに、しばらく動かなかった2人だったが、あるタイミングをもって突然試合が終了した。
見逃したわけじゃない、見れなかったのだ。
スタジアム内にはいくつものカメラが一定の軌道を描き空中を漂っている。
それが各控室のモニターに表示されるのだが、そのすべてのモニターが何かに覆われ視界をふさがれてしまい試合の様子を見ることができなかった。
誰がやったのかはわかりきっている。坂本乙姫だ。それまでの様子はすべて映し出されていたのだから。
最後に彼女はモニターに向かいこういった。
『ずるはだめですよ。』
口パクではあるが、なにを言っていたのかも、それが自分に向けられているという事もはっきりとわかった。
もちろん急いで会場に向かった。しかし、控室からスタジアムまでの廊下で一つ大きな爆音が響いた。
スタジアムの門を開けると、全体が黒い煙に覆われている。
気流の関係か、立ち込める黒煙がすべて椋の開いた扉の方へ吸い寄せられ、だんだんと視界がクリアになっていく。
スタジアム中央で先程まで向き合っていた須山と乙姫だったが、今は須山のユニフォームから火が上がり、のた打ち回る須山の口から「降参だぁ!助けてくれ!」という必死な声が上がっていた。
須山も決して弱そうには見えなかったが、人は見かけによらないというのか、それとも乙姫の方がおかしいのか。
試合をすべて見ていない椋にはそこのところが分からないが、第一試合はたったの2分もかからずに終了してしまい、すすまみれの会場はOLから出る戦闘用フィールドの修復能力によりすべて綺麗になっていった。もちろん須山も無傷の状態まで回復している。
「大丈夫ですか?」
と須山に手を差し出す乙姫だったが、須山の方は、目尻に涙をため、首を横に降りながら猛スピードで乙姫から逃げていった。
観客サイドから見たら確実にただの情けない男にしか見えないだろうが、須山の最後を間近でみた椋には分かった。
須山の目は怯え以外のなにも残っていない、化け物をみるように乙姫をみていたのだから。
当の彼女は首をかしげながら、司会者にいう。
「私の勝利でよろしいんですわね?」
そんな彼女の問いに、ビクッとした司会者はマイクを掲げ、叫ぶ。
『しょ…勝者、朱雀寮代表、坂本乙姫選手!!流石かの有名な爆殺姫といったところでしょうか!!まさに瞬殺でした!』
乙姫の顔は嫌そうに膨れ上がっており、退場と共に椋のもとへに駆け寄り、
「私、あのあだ名は大嫌いなんです。人聞きの悪い…人を殺したことなんてありませんわ!」
とだけ言い、ガツガツと靴の音をわざとらしく鳴らしながら彼女自身の控室へと消えていった。
学校の考査が控えているためしばらく更新を非定期にさせてもらいます。




