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眼前に広がっていたのは、コロッセオとまではいかないが、古めかしく芸術的な建物であった。
「おぉ…すごいな…。」
と、思わず感慨にふけっていた椋だが、乙姫の方は特に気にしている様子もなく、すたすたと入口の門の前まで歩いていく。
二人が門の前で並ぶと、門の左側に何か不思議な装置が現れる。乙姫はその何かわからない装置の前に立つと、左腕の手首に装着された赤いOLをその装置の上にかざすと彼女のOLから朱雀寮の紋章が浮かび上がる。
装置は不思議な機械音と共に、【朱雀寮一年代表・坂本乙姫ヲ認証シマシタ。入場ヲ許可シマス】という音声が流れ、大きな門が静かにその口を開く。
「お先ですわ、お互い頑張りましょう。」
と、乙姫はそれだけ言い残し、長すぎる銀髪を揺らしながら、行くりと閉じていく門の中へと消えていった。
暫く立ち尽くしたままでいたが、時刻を確認すると、入寮祭の開催までもうほとんど時間が残っていなかった。
さすがに遅刻はまずいと思った椋は、見よう見真似ではあるが、装置の上に自分の左腕に装着された黄色いOLをかざす。
【麒麟寮一年代表・辻井椋ヲ認証シマシタ。入場ヲ許可シマス。】
再び、不自然と感じるほどの静かさで大きな門が開いていく。
先程乙姫が入っていったときは結構な速さで門が閉まってしまったため、しめ出されないように素早くスタジアム内に足を踏み込んだ。
その途端扉が静かに閉じていく。
「椋!」
と大きく、いつも、母親の声以上に耳になじんでいるかもしれない女性の声が椋の耳に届く。
パッと振り返ると、走ってきたらしく、息を荒くしている、沙希、真琴、懋、そして契の4人が静かに閉じていく門の隙間から見える。
向こうまで行こうにも時間的にもう余裕がない。
契は少々気まずそうにしているが、残る3人は声を揃え、
「「「負けんなよ!」」」
と大きな声で叫んでいた。
他の何よりも心に響く応援を受けた椋は、ぱっと踵を返し、皆に背を向けながら右手の親指を突出し、再びスタジアムへと歩みを進めた。




