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「あれ?もしもし?聞こえてます?」
と放心状態の椋の心を引き戻すように、乙姫の高めの声が頭に響く。
「えっ!?あ!はい?あ!その…はい!」
と必死に言葉を紡ぎ挨拶を繰り出すが、やはりうまく言葉が出ない。
「で……僕になにか…?」
と乙姫に問うと、ハッとなにかを思い出したように、さらに一歩椋のもとへ詰め寄り、
「そうです!私は道をお尋ねしたくてここに来たのです!!」
「新入生の僕にできることなら…。」
自分自身地図を見ながらここまで来ているのだ。
「私、スタジアムとやらに行かなければならないのですが……。」
彼女の発言に椋の全身に衝撃が走った。予測していなかった不測の事態だ。今回の入寮祭、スタジアムは生徒以外の学園関係者の観戦席になっているとのことなので、あそこに用事がある生徒はほぼ、いや確実に入寮祭の選手という事に場ってしまうのである。まさか相手選手が女性だとは予想していなかったのだ。
「すいません…どちらの寮の方ですかね?」
という椋の質問に乙姫は服の左袖を捲り上げる。手首についている赤いOLを見せつけながら、
「朱雀寮所属ですわ、よろしくお願いしますね、麒麟寮の辻井さん。」
(あれ…?俺自己紹介してない……よな?)
「なんで俺の名…」
と椋が疑問を飛ばす前に、乙姫はさっとその場でくるりと周り立ち位置を椋の左隣に移すと、
「さぁ、行きましょう。案内お願いしますわ。」
とだけ言い、椋が歩き出すのをじいっと待っている。立ち止まっていても何も始まらないと感じた椋は乙姫と共にスタジアムへ向かうことにした。
スタジアムへは最寄りの駅にいるため、移動にさほど時間はかからず5分と掛からないうちに、二人は地上、スタジアムの入り口へと続く階段を椋、乙姫、二人並んでのぼっていくのだった。




