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入寮初日に4人そろって教員に頭を下げる事になるとは思ってもいなかった。
男子寮の玄関前でペコペコているのをその他大勢と共に沙希と真琴が笑っている。
赤面になりながらも、だんだんとみんなとの距離が縮まっていくのを感じる事が出来た椋なのだった。
〇~〇~〇~〇
何か大事なことを忘れているような気がするがそんなことを気にせず、一度新田とは別れ、寮内の全員が集まることのできる【麒麟第一寮中央ホール】という施設への移動を開始していた。
門からでは中庭に遮られて見えなかったが、この寮は男子寮と女子寮をつなぐ連結部があるU字型をしているようで、その湾曲部に中央ホールが存在していた。
一学年約10000人、それが五つの寮に分かれているため、一つの寮土に6000人、話によれば、一つの寮土に10つの寮があるそうなので、単純計算ではあるが、この寮には三学年合わせて約600人の生徒がいることになる。
大型の長テーブルが何台も並んでおり、部屋の奥には講壇がおかれている。
教員に案内されるがまま、新入生全員が席についていくと、沙希と真琴を見つけ、彼女らの向かい側の席に座る。
「アンタたちもうバカやったのね…」
真琴がこちらにものすごく残念そうな目を椋に向けてくる。
やめてくれ!俺が犯人みたいな目で見ないでくれ…。
と心の中で思いながらも、自分のせいではないと言い切れないので、真琴から視線をそらす。
今回の一件をある程度彼女たちに説明すると、話の途中ですでに彼女たちは絶句していた。
「椋…アンタ……本気で契が永棟久史の親族って知らなかったの?」
「私もそっちに驚きだよ……」
と真琴と沙希が、先程の懋達とほぼ同じ言葉を椋に投げかけてくる。
「もういい…その言葉は聞き飽きたんだ…」
半分涙目で、先程の話を続ける。
契が調子に乗って爆発実験を行い火災報知機を鳴らしたというところまでだ。
恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、契が俯いている。
「ハハハッ、契かっこつけすぎだよ」
追い打ちをかけるように沙希がいう。決して責めようとしているわけではないのはわかるが、今の契にはグサグサと刺さる。
さすがに可愛そうになってきたので、フォローを入れようとするが、それとほぼ同時に、学生ではない女性が講壇の上に上がった。
生徒はすべてそちらに集中し、ホールが静まり返ったため、半強制的に椋の契に対するフォローも中断されてしまった。
静かな優しそうな声で20代の後半に差し掛かった当たりのきれいなお姉さんというべきなのだろう。そんな人が新入生に向かい言う。
「私はこの【麒麟第一寮】の寮監、山根美弥です、よろしくね。あと~、ここでは私がルールなんでお忘れなく」
ニコッっと笑顔を浮かべ、さらっととんでもないことを言った。
(この人、やばいな…)
と直感的に思う椋なのだった。




