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結構大きな建物の前に立ち、その全貌を眺める。
2つの大きな建物とそれを隔てるように噴水の付きの中庭がある。
予想というよりは確実に男子寮と女子寮だろう。
こんなにも近くに男女の住まいをおいていいものかと思う。これから3年間を共に過ごすのだ、過ちもないとは言えないだろう。
しかし若い男たちはまだ知らないこの寮の扉は鉄壁である事を。
寮は一室がそれなりに広く二人部屋の様で、それぞれに部屋割りのデータが配布された。
パーティーの褒賞の特別措置がまだ続いているのだろうか、沙希と真琴、契と懋は同室だった。
「俺は!?」
と椋はあわてて部屋割りを確認する。
部屋は契たちと向かい合った位置にある。しかし辻井椋という名前と共に、新田恭介という知らない人の名前が書いてあった。
「オ…俺だけ、部屋が…違う……!」
声をわなわなとふるわせながら椋が地面に膝をつく。
「フッ…残念だね椋、じゃあいこっか懋」
少々ニタっとした顔で契が懋と共に先に部屋に向かった。
「契ぃ!お前だけは裏切らないと信じていたのにっ!」
背中を向けた契が手を振ってくる。
「まぁそう落ち込むなって椋!部屋は離れてても俺たちの心は繋がっているんだ!」
「クサいセリフを吐いたって、扉が2枚合わさると心の壁のように分厚くなる事には変わりないんだぞ!」
手を振りながら去っていく懋の背中に投げかける言葉は虚しくも彼に届くことはなかった。
「契…懋…俺を置いていかないでくれ…」
誰にも届いていないと思っていた言葉は、沙希と真琴に聞かれていたようで、2人は同時に親指をピッと立て、無言のガッツを送ってくる。
沙希の背中は励ましに見えたが、真琴の背中は面白がっているようにしか見えなかった。
とりあえず男女別にそれぞれの寮に入り指定された部屋に行く。
椋もほかの人に遅れないように最後尾についていく。
どんどんと人が消化されていくなか、自分の番が近づいてくる。
自分自列の最後にいるのだから新田とやらはもう同室についているのだろう。
不安に押しつぶされそうになりながらも、これから自分の部屋になる場所へ向かう。
部屋の前に立つと、後ろのドアが開き、懋と契がニタニタしながらこちらを見てくる。
「ああ!いいさ!言ってやるよ!」
そういいながら部屋のドアノブに手をかけ、右にグルッと回し、勢いよく押し込んだ。
まだ2つのベッドしか置かれていない広い部屋には、大柄でデブ……いや…ふくよかな男が座って荷物を広げていた。




