表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と鏡  作者: くれいじい
プロローグ ふたりの天才
1/5

探偵・砂影鏡一登場

くれいじいです。

この度推理小説に挑戦してみました。

キャラクターの個性に重点を置いて書いています。

まだまだ未熟ではありますが、楽しんでもらえれば幸いです。

でわでわ。

閑静な住宅街の中を通る、細い一方通行の道。

季節は夏の盛りで、どこからかセミの声が間髪入れず聞こえてきていた。

近くの高校に通う女子高生、瞳はむわっとした熱気にうんざりしながら、手で首から上を扇いで歩いていた。

この暑さ、毎年思うが本当に何とかならないものだろうか。

家に帰ったら早くシャワーを浴びないと、全身の汗が酷い。

そう思う瞳だったが、同時に寒いよりはましだとも思っていた。

瞳にとって、冬場は地獄。

寒さに弱い瞳は、気温が低くなるとすぐ風邪を引く。

おかげでクリスマスもお正月も寝たきりで過ごす事が多かった。

気温が変わらなければ、季節なんてなければいいのに。

とりとめも無くそんな事を思っていたら、何やら通いなれた道に変わった光景を見つけた。

数十歩先で、狭い道を塞ぐ形で人だかりができている。

そしてその向こうには、パトカーが停まっているのが微かに見えた。

一体何が起きたのだろう。

パトカーが止まるような事と思うと、どうしても気になってしまう。

まるで昼ドラを見る主婦の気分だが、結局瞳は人だかりの中心で起きている事を見てみる事にした。



パトカーに並ぶ形で、フロントガラスが割れ、ボンネットがへこんだ乗用車が停車していた。

どうやら、人が乗用車にはねられたらしい。

事故の関係者は全部で三人のようだ。

運転手と見られる太った三十路と見られる女性と、はねられたらしいボロボロの格好をした中年風の男。

そして警察官と覚しき制服を着た男が二人の仲裁に入っていた。


「だからね、お巡りさん!歩いていたらいきなり後ろから追突されたんだって!」

「そうですか。あの、運転手さん、間違いないですか?」

「わからない…私にはわからないんです…!」

「わからないって、何がわからないってんだよ!」

「何も…何も…」


中々にカオスな会話だ。と瞳は思った。

頑張って理解しようとしたが、駄目だ。三人の間で交わされる会話を聞いてもまったく意味がわからない。

瞳は一瞬躊躇した後、隣で見ていた野次馬の若い女の人に声をかけた。

「あのー…。一体何が起きたのかご存知ですか?」

彼女は初めこそ驚いた顔をしたものの、瞳を見て事の顛末を細かに教えてくれた。

「いや、なんかね、あのおばさんが乗った車が、あのオジサンをはねたんだって。ちょうどあそこで」

そう言って、若い女性は進行方向から見て少し後ろの道を指さした。

見ると、なるほど急ブレーキをかけたようなタイヤ痕がある。

女性はこの道路を走行中、男の存在に気づいて急ブレーキをかけたという事か。

「それでね、車に乗ってたおばさんなんだけど、ぶつかったショックで気絶しちゃって、事故前後の記憶が無いって言ってるの」

「えっ…?記憶が?」

そんな事が本当にあるとは。てっきり本やテレビの中の事だと思っていた。

瞳は運転手の女性を見た。

「思い出せない…何があったの?わからない…私にはわからないんです!」

女性は、頭を抱えて、荒い口調で“わからない”を連呼していた。

何となく哀れみを感じる姿だ。

一方はねられたという男は、鼻息を荒くして言った。

「はっ!どうだかね!記憶喪失のフリでもしてるんじゃないか?」



男は頭が半分はげていて、ボロボロのジーンズを履いて事故の影響かこれまたボロボロに傷ついたTシャツを着ていた。

Tシャツは黄色の地で、その上に青のプリントで四角っぽい文字で「BLUC」という文字があしらってあるように見える。

瞳には「BLUC」という単語がどんな意味を持つのかまったく見当が付かなかった。

(ブルクかしら…それともブラク…部落?でもTシャツに“部落”って…町おこしTシャツか何かかしら…)


瞳が不毛な考えを巡らせている間に、事態は動きを見せていた。

と言っても、平行線を辿る議論に嫌気がさした警察官が、とりあえず場所を移そうと決定しただけの事だが。

「しょうがない。とりあえず詳しい話を聞きますから署の方まで…」

警察官がパトカーの方へと運転手の女性、そしてはねられた男を促した。

女性はまだ取り乱している様子で、手で顔を覆っていた。

「何も覚えてないわ…!そんな、私が、私の知らない所で人をはねてしまったなんて!」

ただでさえ悲劇的な様子を少しふくよかなおばさんが演じる事で、何となく悲哀感が増していた。

男もパトカーの方へ向いながら、女性に向けて悪態をついた。

「ヘッ!白々しいぜ!治療費と慰謝料、きっちり払ってもらうからな!」


事故は終わったかのように見えた。

今にもパトカーに乗ろうとしている三人を見て、野次馬たちが一人また一人と離れていく。

そんな中、瞳も帰ろうかと思った時、野次馬を押しのけて誰かが三人の方へ小走りに近寄った。

「あのーちょっと待ってくれませんかね」

それは、見た所男子高校生のようだった。

瞳が通っている高校とは、違う所の制服を着ている。

上着は着ておらず、ワイシャツのボタンを上から二つ外して、下に着ている黒いインナーが覗いていた。

服装からして、あまり真面目ではなさそうな印象を受ける。

背丈は170センチ台後半くらいだろうか。

髪は長く、鼻が高い何というかモテそうな顔立ちをしている。


警察官が怪訝な顔で彼を見た。

「どうかしましたか?」

「先ほど発生しました交通事故ですが、現場を拝見致しました所、急ぎ警察の方に進言すべき事ができましたのでお呼び止めさせて頂きました」

なめらかにはきはきとしゃべる彼を見て、警察官はさらに訝しげな表情を濃くした。

「進言…?」

「ええ。率直に言うと、その女性が被害を訴えている男性をはねとばしたというのは、偽りである可能性があるという事です」

“偽り”…かなり強い意味の言葉をさらりと舌に乗せる彼の様子からは、年齢不相応なしたたかさが伺える。

警察官は、予想外の発言に目を丸くした。

「はっ?」

無理もない。あの人が何年警察官をやっているのか知らないが、おそらく一般人、しかも高校生に事件について“進言”されるなんて事はそうそうありはしないだろう。

しかも女性は男をはねていないという、今までの状況をまるっきりひっくり返すような主張をしているのだ。

男が怒って、男子高校生の方へ詰め寄った。

「おい!何だお前は!勝手な事言いやがって、俺が嘘ついたっていうのかよ!」

彼はいっこうに動じる気配を見せず、さらに男を挑発した。

「まだ可能性の話ですよ。まあ、結構高いですけど。可能性」

(何か、偉そうなヒト…)

「こいつ!」

馬鹿にしたような言い方によほど腹が立ったのだろう、ハゲ頭までピンクに染まっている。

「お、落ち着いて下さい」

警察官に制止され、ひとまず男は落ち着きを取り戻した。

が、まだ鼻息は荒い。

こちらはこちらでなかなか沸点の低い男だ。

今度は警察官が男子高校生と向かい合う。

「進言があると言われましたが…失礼ですが、あなた、何者ですか?」

すると彼はおどけたように

「ああ、自己紹介を忘れてましたね…うっかりうっかり」

と言うと、スラックスのポケットから名刺ケースを取り出し、中身を三枚抜き取って三人に配った。

「近くの樫本(かしもと)興信所で、探偵として勤めております。砂影鏡一(すなかげきょういち)と申します」

ぺこりと会釈をして、彼は言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ