山の中
町の人たちは輪になって、暗い山の中で踊っていた。私も中にいた。
山の頂上の広場は鬱蒼とした木木に囲まれ、月のない今夜のために、輪の中央では焚き火が焚かれていた。
虫がチロチロと鳴き、辺りは寂しかった。それでも私たちは無言で踊った。
笛吹きはピロピロと奇妙な音を鳴らし、太鼓を抱えた人々がトントンとばちで朱塗りの太鼓を叩いた。
周りに人気は無かった。
踊りながら、私は妙なことに気付いた。
輪が小さくなっている。
笛と太鼓、火がパチパチはぜる音、虫の声。
私たちは地面を踏みしめ、同じ踊りを踊る。
妹が見当たらない。2つ隣にいたおじさんも見当たらない。
輪はますます小さくなっていく。
笛が一際甲高く鳴る。私たちは踊りを速める。
踊りの輪は、とうとう五人だけになっていた。
私は目だけはキョロキョロと動かしつつ、踊る。
太鼓の音が止んだ。笛の独奏が始まる。
私一人が踊っていた。
誰もいない広場で、激しく燃え上がる火の周りをぐるぐると、一人で踊っていた。
太鼓の音が戻ってくる。笛の音が静かになる。
演奏は寂しげな物へと替わる。
何者かが私の体を捕えた。
私は後ろ向きに林の中へと引きずり込まれた。
《了》