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卵
壁にコツンとぶつけると、中身がトロトロと溢れた。
ヒビに指を突っ込み、ピンク色の殻を二つに割ると、その液体と共に一人の人間が落ちてきた。
いや、違う。人形だ。手足の関節に継ぎ目が見える。ハリガネのように細い体をした人形が、粘液の中に座っていた。ゆっくりとテーブルの上に落ちると、人形は徐々に姿勢を崩した。
濡れた人形が喋る。カタカタと体を左右に動かしながら。四角い口を開いて、奥行きの無い中身を覗かせて。
「コンニチハ。僕を作ってくれて、アリガトウ。ゴキゲンイカガ?イカガ?」
「まあまあだよ」
私は人形を握りしめ、右脇に放り投げる。人形は毛のない頭を振り回し、楽しそうに笑っている。
「アハハ」
「アハハハハ」
たくさんの人形が笑っている。小さな人形が山積みになり、カタカタと身体中を鳴らしながら笑っている。私はそれを目の端で見、すぐに別の山を見る。
たくさんの卵が待っている。パックに詰められ、ピラミッド状に積まれた色とりどりの卵が。
私は新しい卵を手にとって割った。いくつも割った。笑う人形は見る見るうちに増えていった。
《了》