表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い果実  作者: 酒田青
再び紅い果実に類する幻想ホラー集
55/58

 今日も僕は白い幕に区切られた場所に座っている。ここは、狭い。薄汚れた幕はゆらゆらとはためくが、あまりに大きいので向こう側を覗き見ることが出来ない。ただ、声だけは聞こえる。

「ねえ、私のこと、好き?」

「はい」

「好き?」

「はい」

「好き?」

「はい」

 少女の可憐な声は何度も男に問い掛ける。僕は耳をすませる。少女は同じ質問を五十二回繰り返した。

「好き?」

「……はい」

「あら、今ためらったわね。ためらったでしょう」

 少女の声が甲高くなる。男の一本調子だった声は急にこわばる。

「そんな、ことは」

「好きじゃないのね。私のこと好きじゃないのね。そんな人は、そんな人はね」

 次の瞬間、悲鳴が聞こえた。男の悲鳴だ。やめてくれ、助けてくれと叫んでいる。

 悲鳴が高まるごとに、何か肉のようなもののちぎれ、裂ける音がする。骨のようなものがバキボキと砕ける音がする。

 男は静かになった。その代わり、何かをむさぼるような音がする。誰かが何かをすすり、かじる音だ。

 いい音だ。美しい音だ。僕は毎日この音を聞いている。彼女は声と同じく可憐に違いない。きれいな形をしているに違いない。

 彼女に、会いたい。

 その時きぬずれの音がして、その方を見るとほっそりした手が幕の隙間から覗いて手招きをしていた。少女の声は言った。

「次は、あなたの番」


 《了》

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ