文字
クラスの隅に、ひとりぼっち。誰も私に気付かない。誰も私を人と思わない。
毎日が無機質で、退屈で、重たい。群れをなす女の子たちは今日も小鳥のようで、さえずりの会話はいつものように意味がない。私は窓際の席で、漫画を読む。ありきたりな筋の少女漫画はつまらないけれど、私にはこれしかすることがない。
悲しくない。辛くない。ただ毎日が長いと感じるだけ。
「本当に?」
声は突然聞こえてきた。私は周りを見渡した。狭い教室は昨日と同じく私に無関心だった。
「書いてあるよ。気付かないの」
目の前の数学のノートは真っ白だった。
「鏡を見て」
私は手鏡を取り出した。そして泣いた。
私の顔には文字が印刷されていた。左頬に一言、
『寂しい』
文字はみるみる増えていった。
『苦しい』
『悲しい』
『どうすればいいのかわからない』
『助けて』
顔が文字で埋め尽される。遠くからタイプライターらしき音がカシャカシャと聞こえる。
クラスの様子はいつもと同じだ。人の集まるところ特有の生ぬるさ。若者特有の無邪気なかしましさ。
誰も私に気付かない。
こんなに文字が溢れているのに。文字は私の顔を越え、体を越え、とうとう机と床を侵食し出した。カシャカシャとタイプライターは鳴り続け、文字は円形に広がり続ける。
なのに誰も気付かない。私の叫びに気付かない。
広がった先に黒板があった。白い文字がカシャカシャと大きく打ち出された。
『死にたい』
そう、死にたい。
《了》