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紅い果実  作者: 酒田青
再び紅い果実に類する幻想ホラー集
54/58

文字

 クラスの隅に、ひとりぼっち。誰も私に気付かない。誰も私を人と思わない。

 毎日が無機質で、退屈で、重たい。群れをなす女の子たちは今日も小鳥のようで、さえずりの会話はいつものように意味がない。私は窓際の席で、漫画を読む。ありきたりな筋の少女漫画はつまらないけれど、私にはこれしかすることがない。

 悲しくない。辛くない。ただ毎日が長いと感じるだけ。

「本当に?」

 声は突然聞こえてきた。私は周りを見渡した。狭い教室は昨日と同じく私に無関心だった。

「書いてあるよ。気付かないの」

 目の前の数学のノートは真っ白だった。

「鏡を見て」

 私は手鏡を取り出した。そして泣いた。

 私の顔には文字が印刷されていた。左頬に一言、

『寂しい』

 文字はみるみる増えていった。

『苦しい』

『悲しい』

『どうすればいいのかわからない』

『助けて』

 顔が文字で埋め尽される。遠くからタイプライターらしき音がカシャカシャと聞こえる。

 クラスの様子はいつもと同じだ。人の集まるところ特有の生ぬるさ。若者特有の無邪気なかしましさ。

 誰も私に気付かない。

 こんなに文字が溢れているのに。文字は私の顔を越え、体を越え、とうとう机と床を侵食し出した。カシャカシャとタイプライターは鳴り続け、文字は円形に広がり続ける。

 なのに誰も気付かない。私の叫びに気付かない。

 広がった先に黒板があった。白い文字がカシャカシャと大きく打ち出された。

『死にたい』

 そう、死にたい。


 《了》

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