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紅い果実  作者: 酒田青
再び紅い果実に類する幻想ホラー集
50/58

胎内

 私は暗い、暖かい場所を歩く。辺りは湿っていて、息をつくと甘い香りの空気の波が私の鼻孔に潜り込む。

「可哀想に。可哀想に」

 壁越しに母が呟く。その声は優しく慈愛に満ちていて、私は涙が止まらなくなる。母に哀れみを受けることが、こんなにも嬉しいことだなんて知りもしなかった。

「お母さんのお腹の中に戻りなさい」

 母は私を抱き締めた。私の体は次第に力を失い、小さくなった。頭が朦朧とする。吸い込まれていく。母のへその穴の中に。

 暗い。しかし僅かに赤く透けて見える母の胎内の色。

 私は柔らかな胎盤に寄りかかる。体が深く沈む。母の血が波打つ。血液の流れるさらさらとした音が、私の身体中に響きわたる。

「お母さんが守ってあげる。そこにずうっといなさいね。ずうっと、ずうっと」

 私は体を丸めて泣く。ずうっと、ずうっと、ここにいられるのだろうか。いていいのだろうか。私は顔を母の胎盤に押し付けて泣く。

「ねんねん・ころりよ・おころりよ」

 私は眠る。深く、深く。


 《了》

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