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紅い果実  作者: 酒田青
再び紅い果実に類する幻想ホラー集
46/58

聖夜

 クリスマスの夜は一人だった。

 三日前に恋人と別れた。

 そのことで相当に傷付いていたのかもしれない。友人たちの誘いも断って、イブもクリスマスも予定は無かった。

 イブは日曜でクリスマスは平日の月曜だった。

 仕事があっても無くてもイブはイブで、クリスマスはクリスマスだった。日本中の恋人たちが浮かれていて、僕は一人底の方へと沈んでいった。

 クリスマスは終わりに近付いている。イルミネーションやツリーやサンタクロースの仮装をした若者たちが街を飾る。恋人たちが街でひしめき合う。

 仕事が終わって、僕は体の疲労を引きずりながら、気持とちぐはぐな周りの空気を吸い込む。

 あいつは、かつての恋人は、新しい男とこの2日間を過ごしたんだと思う。

「彼とイブの約束をしてるから」

 きっと定番のクリスマスカップルの一日を過ごしたんだろう。

 昼はどこかのイベントに行って、夕方にレストランで少し高い酒を飲み、夜はホテルで抱き合う。あるいはどちらかの家で過ごしたのかもしれない。

 どちらにしても、夜のクリスマスカップルの行動は決まりきっている。

 僕の気持ちはどんどん暗闇へと落ち込んでいく。周りと隔絶した世界へ。

 だけど鼓膜は相変わらず現実と密着している。「ジングルベル」と甘えたような女たちの声が身体中に響き渡る。

「全員死ね」

 驚いて振り返った。誰かが僕の耳元でそう囁いた。

誰もいない。

「死ね」

 また聞こえた。かすれた、男か女かよく分からない声。僕はゾッとして、委細構わず立ち止まってキョロキョロと辺りを見回した。

「死ね」

 僕はギクリと立ち止まった。仮装のサンタクロースの口許を注視した。

「死ね」

  ニコニコ笑い、誰ともなしに手を振りながら、サンタクロースはそう呟いていた。

「死ね」

 僕はようやく気が付いた。

 クリスマスの人々の唇の動きに。

「死ね死ねシネ死ねシネ死ね死ねシネシネ」

 笑いながら、寄り添いながら、抱き合いながら、人々は合唱し続けた。

 僕は光に満ちた聖夜の夜の空の下で、ぼんやりとその光景を眺めていた。


 《了》

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