砂
毎日のことです。私は毎日見ているのです。怖くはない。悲しくもない。ただ私はこのことにしっくりと馴染み、むしろ親しみを感じているのです。
昨日の夜のことです。明日食べるパンを焼こうと、私は小麦粉をふるいにかけました。粉は網目をくぐってさらさらとボウルに落ち、きめ細やかな山を作りました。私はそれをボウルごとゆすり、小麦粉を平らにならしました。
すると、表面に文字が浮かぶのです。金釘流のきれいとは言いがたい字が、タイプされたように整然と並んでいます。
「こんばんは。こんばんは。お元気ですか。お元気ですね。明日はあなたが亡くなる日ですね。とても楽しみですね」
私はそれをじっと見て、すぐに打ち消しました。それから、イースト菌やら砂糖やらを混ぜて、いつものようにパンを作りました。
三年前から文字は現れます。初めはただの意味の無いお喋りでした。
「こんにちは。こんにちは。水が鳴っています。死んだ鳩が上を流れていきます。ふやけて溶けています。魚が群がっています」
だとか。しかしここ一年、私の死亡予定日の話ばかりが書かれます。私は少しばかり驚きましたが、自分の死のというのは何だかよその世界のことのように感じられます。深く考えないで、その日が来るまでそのままにしていました。
次の朝のことです。私は朝のパンとヨーグルトをお腹に納め、歯を磨き、お化粧を始めました。おしろいの蓋をあけました。薔薇色がかった白い粉に、こう書いてありました。
「おはよう。おはよう。いいお天気ですね。水がよく跳ねますね。あなたは今日亡くなりますね。楽しみですね」
小さな円の中で、小さい文字のくぼみがそう言っていました。私は目をぱちぱちさせて、そのおしろいを鼻にはたきました。
私は今、海に来ています。海とは思いがけず騒々しいものです。波と風と塩気がとてもうるさく感じられます。誰もいない砂浜に、大きく乱れた文字が書かれています。
「いらっしゃい。いらっしゃい。亡くなる時間は今この時です。私達はとても嬉しいです。早く、早く、いらっしゃい」
私は砂浜に横たわりました。波がゆっくりとかさを増し、私を少しずつ運んでいきます。
海の中には沢山の人が見えます。
《了》




