ヘビさんどこ行くの
「ヘビさんどこ行くの」
わたしは枯れた草の上を泳ぐように進む、赤いヘビさんに声をかけました。本当に、本当に、鮮やかな色でした。
ヘビさんはくねくねするのをやめて、鎌首をもたげました。そして、閉じた口の先にある小さな穴から長い舌を出しました。
「やあ、みつ子ちゃん。ぼくはおうちに帰るんだよ」
ヘビさんのおうちはすぐそこです。わたしは乾いた穴の入り口までついていきました。
「じゃあ、さようなら」
わたしたちはそこでお別れをしました。ヘビさんは穴の中にするすると入り、わたしは草むらに向かって歩きました。
「ねずみさんどこ行くの」
わたしは足下をすばやくかけていく、大きなねずみさんに声をかけました。本当に、本当に、大きなねずみさんでした。
ねずみさんは太った体をゆっさゆっさと揺らして振り向きました。ミミズのような尻尾を引きずっています。
「やあ、みつ子ちゃん。ぼくはごちそうを食べに行くんだよ」
ごちそうは向こうの丘の上にありました。わたしはねずみさんについていきました。
「じゃあ、さようなら」
ねずみさんはごちそうに向かってかけていきました。仲間たちは大勢、ごちそうにむらがっています。
ごちそうはわたしのおじいさんでした。おじいさんは骨の一部をのぞかせながら、もう動かない顔をわたしに向けています。おじいさんが動かなくなってから、もう十日になります。この古い家の広い庭で、おじいさんは突然倒れたのでした。
「みつ子ちゃんどこ行くの」
さっきのヘビさんがわたしの隣をはっていました。ヘビさんは大きな体を見事にくねらせながら、私にすりよりました。
「わたしは行くところが無いのよ。だっておじいさんが死んでしまったのだもの」
わたしがそう答えると、ヘビさんは長い舌をちらちらさせて、私に言いました。
「じゃあ、ぼくはどっちを食べればいいんだろう。あのねずみたちとみつ子ちゃんと」
ヘビさんの目は輝いていました。私は答えました。
「わたしを食べて」
ヘビさんはうんうんとうなずいて、舌をちょろちょろと泳がせました。
《了》