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紅い果実  作者: 酒田青
童話的小品集たち
37/58

珊瑚の宝箱

 私は伝説と伝統が根強く残る、入り江の村に住んでいます。

 家々はそれぞれコの字に曲がりくねって横たわり、門はコの字を塞ぐ形に構えられています。

 屋根は大袈裟に上向きに沿っていて、私はこれを見るたび不安な気持になります。

 私の村の宝は珊瑚です。珊瑚は入り江の海岸や、海底に沈んでいます。

 私たちの家の門には、赤や白にぴかぴか光る、珊瑚の細工がはめ込まれています。珊瑚は村の神様の守りの証しなのです。

 ある日私は入り江をずっと伝っているとき、きらりと光る物を見付けました。白い珊瑚のかけらでした。

 辺りを見回すと、目立たないくらい狭い狭い洞窟から、他にいくつもの珊瑚のかけらがこぼれているのを見付けました。

 私は驚き、中を覗きました。

 中はいろんな色の、大小様々な珊瑚が落ち、外からの僅かな光で輝いています。

 私は我を忘れて中に入りました。子どもの私には簡単なことでした。するりするりと狭い通路を抜けると、私は広いところに出ました。

 そこは、まだ加工されていない珊瑚の隠れ家でした。

「きれい……」

 私は溜め息をつき、そばにある大きな桃色珊瑚を手に取りました。

 それはつるつるしていて、この世のものではないかのように清浄な色をしていました。

 珊瑚はあちらこちらに山となって積もっていて、どうやらここは昔の誰かの珊瑚の貯蔵庫のようでした。

 私しか知らない……。

 その事実は私を満足させました。だって私は神様の宝を独り占めしているのです。

 私はいつも持ち歩く、桐の小箱に可愛い赤い欠片や綺麗な桃色の塊を詰めて行きました。これは私の宝箱なのです。

 ふと、一際大きな山の上に、特別光る物を見付けました。近寄ってみると、それは小指くらいの小さな人間の形をした白珊瑚でした。

 昔の人が彫ったのかしら……。

 そう思いましたが、違いました。その白珊瑚は生きていたのです。

 彼女は美しい神様のしもべでした。私よりお姉さん……、大体十五歳くらいの美人です。

 彼女は私に無言で抱きつきました。私に口づけをしました。私を歓迎してくれているのです。

 私は彼女を抱き締めました。彼女があまりにも美しかったから。

 どうやら彼女はこの珊瑚の秘密の洞窟の番人のようでした。私が村の人に見せようと洞窟から連れだそうとすると、いやいやをするように首を振るのでした。

 ですが、私は残酷でした。彼女を私の小箱に無理矢理に押し込み、蓋をしてしまったのです。

 ことことと、何か暴れる音が聞こえました。私は残忍ににやにやと笑いました。

 外に出て、暫くは村人に黙っていました。私だけの秘密……。それが大事だったのです。しかし、幼い私の虚栄心は、口をつぐむには大きすぎました。

「入り江の奥に、昔の人の珊瑚置き場を見付けたよ……」

 私が友達に言うと、それは村じゅうにわっと伝わっていきました。大人たちは早速道具を持ってそこへと走りました。子供は私の意味ありげに見せびらかす小箱を興味しんしんに見つめました。

「見せて、見せて……」

「いいよ……」

 私は皆に誉め称えられるのが楽しみで楽しみで、にやにや笑いを押さえられません。だってこの中には生きた珊瑚の精がいるのです。

「さあ、ごらんよ……」

 私は箱を開けました。途端に、ぎょっとしました。

 桐の箱の内側は、真っ赤に光っていました。詰めた色々な珊瑚は、全て真っ赤に染まっていました。

 白い珊瑚の精が、全身バラバラになって、赤い内側をさらしていました。その顔には絶望が浮かんでいました。

 私達はしんとなりました。

 背中がぞくぞくと冷え込んできました。

 ……珊瑚を取りに行った大人たちは、二度と帰ってくることはありませんでした。


 《了》

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