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紅い果実  作者: 酒田青
童話的小品集たち
36/58

野いちごの家

 その家はかつては立派であったのだろうと思わせる、赤いレンガの花壇と白いしっくいの残骸のへばりついた木の家でした。

 こういう家にはたいてい毒朝顔が巻き付いて、全体が緑の葉っぱで覆われるものです。その家も例外なくそのような様子をしていました。

 ただ、その家には毒朝顔のツタ以外にも、野いちごのツタが下の方に巻き付いていました。

 夏は毒朝顔が紫色のラッパ型の花を満開にするのですが、春は野いちごの白い小さな花と、粒がもこもこと集まったような、つるっとした赤い実の天下でした。

 女の子は小さな妹を連れて、そこの野いちごを採りに行きました。沢山集めてジャムにするのです。

 女の子がその家の周りのおんぼろな柵に巻き付いた野いちごの実をぷちぷち採って、片手に持っている袋に放り込んでいると、何か声が聞こえてきました。

「何をしているの……」

 しわがれたおばあさんの声でした。声は、家の中から聞こえてきました。

 女の子は、この家は空き家だと思っていたのでびっくりしました。そして、黒く曇った窓をそっと覗きました。

 中には、緑色の影がいました。

 女の子はこれは危ないものだ、ととっさに思いました。だから返事をせずに急いで逃げてしまおうと思いました。

 しかし、女の子は大変なことに気付いてしまいました。一緒にいた小さな妹を見失ってしまったのです。

 妹はもっと大きな野いちごを探しに、柵の中に入っていったようでした。

「妹ならここにいるよ……」

 中からさっきの声がそう言いました。

「こっちに来なよ。そうしたら妹を返すから……」

 女の子はとても怖くなりました。だけど妹を助けなければなりません。耳をすますと、妹のしくしく泣く声が聞こえてきます。

 女の子は勇気を出して、門をくぐりました。鬱蒼と草の生い茂る小さな庭を通りすぎ、おんぼろでも立派な構えの玄関に着きました。

 ノックをしました。

 ドアが、ゆっくり開きました。すえた臭いが漏れて来ました。

 次の瞬間、女の子の姿はそこにありませんでした。ドアも何事もなかったかのように閉じていました。家の中のすすり泣く声も止まりました。

 それ以降、女の子とその妹を見た人は一人もいません。


 《了》

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