風船乗り
風船乗りが、大きな風船につかまって飛んだ。
風船は虹色で、風船乗りも七色の衣装を身に纏っていた。風船乗りが握る風船の紐も虹色だ。
地上ではたくさんの人がわあわあと、風船乗りを応援していた。風船乗りは手を振った。
風船乗りと風船は、風に吹かれるままにふわふわと空を漂った。
遥か下の地上では、氷砂糖を敷き詰めたみたいな岩山や、緑色の柔らかい絨毯のような森や、おもちゃ箱の中みたいな街が見えた。
風船乗りは海に出た。
上から見る海は、やっぱり大きかった。陸の外を風船から見渡しても、新しい陸が見当たらない程だった。
その内、小さな島が見えた。風船乗りは、「これはいい」と思った。
風船の紐につかまっている手が痛くなってきたから、暫くあの島で休もうと思うのだ。
風船はうまいこと島の上に着いた。さあ、降りよう。
だけど、降りられない。風船は相変わらずふわふわと空を漂っている。下に降りる気配はない。
風船乗りは痛む手をちらちら見て、どうしようかと考えた。
重しをつけるにも、下に降りなければ見付からない。
はて。
そうだ。
風船乗りはにっこり笑って腰の荷物入れを探り始めた。こうすれば降りられる。
風船乗りは、銀のナイフを風船につきたてた。
パン。風船は破れた。
風船乗りは落ちる。ゆっくり、ゆっくり。
風船乗りは島のてっぺんの岩山に落ちて、ぺしゃん、潰れてしまった。
次の瞬間、島から大きな風船が上がった。
血のように真っ赤な風船だ。
周りの海からも、たくさんの風船が上がり始めた。どれも血で作ったように赤い。
ふわふわ。ふわふわ。
空が風船で赤くなる。
《了》