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紅い果実  作者: 酒田青
紅い果実とその他の短い幻想ホラー
27/58

 壁を見ると、顔があった。

 俺は呆然と壁を見つめた。煙草のヤニで茶色くなった俺の部屋の壁には、老婆の顔が浮き上がっていた。

 皺に埋まった小さな目、大きな鼻、口角がひどく下がった大きな口。

 俺の母親だった。それも、今よりはるかに老いていた。

 母親は今、俺のあの辛気臭い田舎に一人で暮らしているはずだ。

 この顔は、何だ?

 顔は皺くちゃの顔を更に皺くちゃにして、泣いていた。口が震えていた。涙は壁をつたって床にたどり着いた。

 俺は吸いかけの煙草を指にはさんだまま、後退りした。

 顔は鳴咽を漏らす。

「うう~、うう~、幸宏~」

 俺の名を呼んで泣く。俺は恐ろしくなる。

「幸宏~、幸宏~」

 今度は手が出てきた。平らな壁から粘土のように、壁と同じ色の腕が生えてくる。

「幸宏~」

 母親は俺の名を何度も呼ぶ。

「何だよ」

 俺は引きつった声でわめく。

「何なんだよ!」

「幸宏~、うう、幸宏~」

 とうとう壁から足が生えてきた。

 もう俺には後ろに下がる余地は無かった。


 《了》

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