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紅い果実  作者: 酒田青
紅い果実とその他の短い幻想ホラー
26/58

千代紙

 幼い僕は、夕暮れの公園の隅で女の子を見た。可愛い子だった。

 僕は彼女におずおずと近寄った。もう家に帰らなければならない頃だ。でも、その前にせめて彼女と一言だけでも交したくなったのだった。

「なあに」

 僕に気付いた彼女が不思議そうに僕を見上げた。彼女はベンチに座って、折り紙のようなものを広げたスカートの上に並べていた。

「それ、何してるの」

 思いがけず喧嘩ごしのような声で怒鳴ってしまった。僕は内心慌てた。

「千代紙買ってもらったんだよ。綺麗でしょ」

 焦る僕のことなど意に介さずに、女の子は微笑んだ。人形のような笑顔だった。

「お父さんが買ってくれたの?」

「ううん、おばあちゃん。いいでしょう」

 と、女の子が朱色に白い筋がいくつも通った一枚の千代紙をかざした。僕はようやくこの千代紙を誉めなければならないことに気付いた。

「綺麗だね」

「そうでしょ」

 女の子は嬉しそうに笑った。

「おばあちゃんと一緒にいないの?」

「今ちょっとどこかにいっちゃってる」

「そうなの」

 女の子は千代紙を色別に分けていた。僕は女の子の趣味などよく分からないが、女の子によく似合う綺麗な紙だと思った。

 僕はもう一言、彼女に話しかけようとした。その時。

「あっ、おばあちゃん」

 女の子の、待ちかねていたというような声。視線は僕の後ろ。

 振り向いた。

 吐息が聞ける程すぐそばに、紫色の老婆がいた。

紫色の着物。髪の毛。顔。

 顔は醜くひしゃげていた。僕はひっと小さな悲鳴を挙げた。

「おばあちゃん、どこか連れてってくれるんでしょ?早く行こうよ」

 女の子はにこにこと老婆に話しかける。老婆は無言で女の子の手をとる。

「じゃあね、バイバイ」

 女の子と老婆は公園の出口に向かう。

 行っちゃだめ。

 僕はそう叫んだけれど、声にならなかった。

 女の子と老婆は植木の陰に消えた。

 僕は薄暗い公園の片隅にいた。泣きそうな気分だった。

 千代紙が一枚、足元に落ちていた。


 《了》

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